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ごっつぁんゴーラーは育成できるか?
インザーギの恩師3人と本人に聞いた。
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byGetty Images
posted2020/06/13 19:00
セリエAやCLで得点を量産したインザーギ。ユベントスとミランでスクデット獲得計4回、ミランではCL優勝2回にも大きく貢献した。
得点感覚だけが、一本の剣のように研ぎ澄まされた。
少年期のインザーギにはポジションに関する悩みすらなく、ひたすらゴールだけを目指した。そして得点感覚だけが、一本の剣のように研ぎ澄まされていった。
新たなインザーギを作ることは可能ですか? 彼のオフィスを出る間際、「発見者」にそう尋ねた。彼は少しだけ考え「NO」と首を振る。あんなのはいないよとでも言うように。
「ピッポと話すことがあれば伝えてくれ。カードゲームで私に負けて怒るのだけはもうやめろとね」
ピアチェンツァのユースで育っていったインザーギは、18歳になるとセリエBデビューを果たす。
ボールがひどく不自然に足下へ転がっていく。
トップチームに引き上げた当時の監督はジジ・カーニだった。昨年60歳を迎えたカーニはさっぱりとした格好で、リグリア海を見渡すラパッロの鉄道駅にやってきた。イタリア国鉄の遅延をわびると、ああ、そんなの普通だよと言い、行きつけの海沿いのカフェヘと歩いて行く。
「あんなに下手なやつ、絶対に使ってやるもんかと思ったね」
老将は石畳の小道をゆっくりと歩きながら、若きインザーギについて話し始める。
「本当にどうにもならん下手さだった。足下にボールは収まらない。パスは2mはずれた。ドリブルなんかその辺りの小学生の方がまだ気の利いたことをする。オフサイドにも引っかかる。おいおい、ルビーニの奴はいったい何でこんな選手を連れてきたんだと」
しかしユースでプレーするインザーギを毎週眺めるうちに、気になったことがひとつだけあった。
「ボールがだな、何かこう、ひどく不自然にやつの足下へ転がっていくんだ。何かしらの形でね。最初は偶然だと思ったさ。しかし次の試合も同じ。その次の週もだ。これは才能じゃないかと思ったのはその頃だった」