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「コロナうつ」にならないために……。
アスリートが必要な心構えとは?
posted2020/05/26 11:50
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
Hirofumi Kamaya
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、外出自粛や休校、在宅勤務など、私たちの生活は大打撃を受け、社会的環境も大きく変わった。
こうした変化と長引くコロナによる様々な影響に関する不安から、多くの人々がストレスを感じ、憂鬱になるなど、メンタルの不調を訴えている。世間では「コロナ疲れ」、「コロナうつ」、「コロナブルー」といった言葉も頻繁に聞かれるようになった。
もちろん、アスリートも例外ではない。
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東京オリンピック・パラリンピックの延期を始め、プロ野球は開幕が先送りになり、Jリーグもリーグ戦が中断。トップギアを入れていた状態で突如、急ブレーキがかかった状態となり、選手たちのやる気は一時的に行き場を失った。また、プロスポーツのみならず、あらゆるスポーツイベントが中止を余儀なくされた。しかも試合のみならず、外出の自粛やトレーニング場所の閉鎖等により、練習することすらままならなくなった。
アスリートも新型コロナウイルスに自分が感染してしまうのではないかという直接的な恐怖のみならず、先行きに大きな不安を抱えた。そんな彼らの精神的な苦悩は想像に難くない。
たとえば、4月下旬には国際プロサッカー選手会から新型コロナウイルスの影響で不安障害やうつ病に似た症状を示すプロサッカー選手が急激に増加していることが報告された。一流選手を除けば、1~2年契約が主流のサッカー界。症状を訴えた選手の多くが将来への不安を抱えていた。このように、スポーツ界でも一般社会と同じような構図が表面化してきていると言える。
先行きが見えにくいことが一番の原因。
コロナ禍でプレーの機会を奪われたアスリートたち。2015年のラグビーW杯で日本代表のメンタルコーチを務めたスポーツ心理学者、園田学園女子大学教授の荒木香織氏は、アスリートが心理的に不安定な状態に陥る状況をこう分析する。
「アスリートが不安を感じたり、途方に暮れた状態に陥るのは、やはり先が見えない、この先どうなるか分からないといったように不明瞭な要素が多い場合です」
真剣勝負の厳しい世界に身を置くトップアスリートはメンタルが強い。そんなイメージを抱く人も多いのではないだろうか。しかし、実際は「繊細なタイプが多い」と荒木氏はいう。むしろ、繊細だからこそ、トップに上り詰めることができた選手も少なくはない。
緊急事態宣言の発令後、5月中旬までの時点で荒木氏のもとにトップアスリートからの緊急を要するSOSはまだ届いていないというが、このシーズンで引退すると決めているアスリートからの相談は「ちらほらある」という。また、とくに中学3年生や高校3年生など最終学年の子どもたちは心理的に厳しい状況に置かれており、サポートの必要性を訴える。