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「コロナうつ」にならないために……。
アスリートが必要な心構えとは?
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byHirofumi Kamaya
posted2020/05/26 11:50
2015年のラグビーW杯に出場した日本代表のメンタル面をサポートした荒木香織氏。
五輪延期で「心理的に楽になった」選手も。
アスリートが不安を抱えたり、うつ状態に陥る引き金になるのは、「“こんなに練習してきたのに披露する場がない”とか、“夏には出来るだろうと思っていた大会がいつになるか分からない”など、自分がやろうとしていることと現実とのギャップに気が付いたとき」だ。
一方、現在、荒木氏のもとに寄せられる声で多いのが、自分たちの意思ではどうにもならない意思決定機関や所属チーム、指導者の判断に納得できないことや、彼らの発言や行動に矛盾や疲れを感じたアスリートが、今後どうしていくべきかについて、あくまでも前向きなアドバイスを求めるものだという。
「もちろん、試合や練習ができない状態ではありますが、それでもまだ自分で何かができる状態ではあるので。また、東京オリンピックを目指している選手などは、逆に延期が決定して心理的に楽になったといいます。というのも、先が見えない状態ではありながらも、1年後に向けて調整をしていくというように、その選手自身が目指すべきものが見えているので」
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現時点で落ち込んでどうすればいいか分からない、不安で眠れないといったような、「コロナうつ」が疑われるものはないが、今後の状況によっては、そうした相談が増える可能性は十分にありうると見ている。
「ポジティブにと言われても無理ですよね」
試合ができないコロナ禍では喪失感や無力感に打ちのめされ、パンデミックや大災害など非常事態になると、自らの無力さを嘆き、自身の存在意義を問うアスリートも少なくない。
「ポジティブにと言われても無理ですよね。今のような状況ではとくにそう考えづらいものです。ましてや誰も経験したことがない状況で、先のことは誰にも分かりませんから」
先が見えない状態において、人は4つの感情を行ったり来たりすると言う。
「1つは“自分の仕事は価値がない”など、自身を否定することです。さらに“一体これはなぜなのか”、“どう対応すればいいのか”と混乱するなかで腹を立てたり、イライラする怒りの感情を覚えます。また、“こういう状況なのだから◎◎してもいい”といったように、交換条件をつけて普段はしないことを正当化したり、“この状態ではやっていけない”とへこんだり、落ち込んだりすることも。
ただ、コロナ禍のような危機に直面した場合に、こうした感情を持つことは普通の現象で、ある意味、教科書通りの反応ともいえます。そして、1度、自分自身で受け止められたとしても、またこうした4つの感情に戻ってくるもので、それを繰り返しながら人は順応し、自分でコントロールできるようになり、前進していきます」