ラグビーPRESSBACK NUMBER
日本の票が会長選の命運を分けた?
「ティア1昇格」に問われる振る舞い。
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byAFP/AFLO
posted2020/05/19 19:00
2019年W杯組み合わせ抽選会で肩を組むビル・ボーモント(左)とアグスティン・ピチョット。会長選に敗れたピチョットは理事の座を自ら退いた。
改革をもっと進めるべきか。
非伝統国の発言権、意思決定への参加権は着実に増えた。だが一方で伝統国の決定権も並行して増していた。
「ティア1」各国は、W杯で8強進出経験を持つフィジーやサモア、カナダなどの3倍にあたる3票を持つ。地域団体には2票ずつが与えられていたが、アジア協会には22の国と地域が加盟していて、理事国枠を持つ日本を除けば21カ国で2票。単純な国・地域単位で比較したら約30倍もの「1票の格差」が存在する。
今回の会長選挙の争点はそこだった。「改革開放はすでに進めている」と考えるのか。「もっと進めなければ」と考えるのか。前者がボーモントであり、後者がピチョットだ。昨年のW杯のとき、ピチョットは言っていた。
「もっと多くの国がトップに挑戦できるような仕組みを作らなければならない。簡単ではないけれど、それをやめたら僕がここ(ワールドラグビー副会長)にいる必要はないからね」
ピチョットは4月に発表したマニフェストで、意思決定システム、つまり理事枠の平準化、「ティア1」以外の国(日本やフィジーなど)が上位国と対戦できるカレンダーの再編成などとともに「ブラジルやチュニジアなど」と例を出して「新興国の強化をサポートしよう」と訴えた。
伝統国側としては、ちょっと待て、というのが本音だったろう。改革は進めてる。門戸も開き始めた。今までだってチャンスは与えてきた。だからアルゼンチンも日本もこんなに強くなったんだろ。フィジーやサモアやウルグアイも理事に入れた。強くなったら伝統国とも試合を組んであげる。そもそも、いろんな国が強化できるように分配するお金を作っているのは我々伝統国だぞ……そんな本音が、いつもは水と油だった英仏大連立さえ実現させた。
3票がピチョットに流れていたら。
かくして、選挙の結果は28-23。ボーモントは選挙に勝利したが、下馬評以上の僅差でもあった。本拠地イングランドでも、2003年W杯優勝監督のクライブ・ウッドワードがピチョット支持を表明するなど、世界各国で意見は割れた。
海外メディアで報じられた投票内訳では、欧州協会はボーモントを支持したが、6カ国対抗への門戸が閉ざされているジョージアとルーマニアはピチョットについた。一方、オセアニア協会はSANZAAR(南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリア、アルゼンチン)に従いピチョットについたが、新加盟のフィジーとサモアはボーモント側に回った。米国・カナダと北米協会の4票は2-2で分けた。アフリカ協会はSANZAARを離れボーモントへ。そしてアジア協会はピチョットに、日本はボーモントについた。
差は5票だったから、ボーモントに投じられた票のうち3票が逆に流れていたら結果は入れ替わっていた。日本とアフリカが、あるいはそのどちらかともう1カ国・団体が逆に投じていれば、結果は入れ替わっていた。日本は、まさしくキャスティングボートを握っていたのだ。