ラグビーPRESSBACK NUMBER

日本の票が会長選の命運を分けた?
「ティア1昇格」に問われる振る舞い。 

text by

大友信彦

大友信彦Nobuhiko Otomo

PROFILE

photograph byAFP/AFLO

posted2020/05/19 19:00

日本の票が会長選の命運を分けた?「ティア1昇格」に問われる振る舞い。<Number Web> photograph by AFP/AFLO

2019年W杯組み合わせ抽選会で肩を組むビル・ボーモント(左)とアグスティン・ピチョット。会長選に敗れたピチョットは理事の座を自ら退いた。

複雑なワールドラグビーの構造。

 では、勝負の鍵はどこにあるのか。

 選挙を行う以上、有権者の支持を得なければならない。

 まず基礎票は? 6カ国対4カ国だから、その差は2票? いや、ワールドラグビーという組織の選挙は、単純な国(と地域)の数あわせではない、複雑な構造なのだ。ワールドラグビー理事会の票数(議席)は51あるが、これは51カ国に割り振られているという意味ではない。議席を持っている国・地域と地域協会の数は24。しかも、国によって、割り当てられた議席数は大きく異なるのだ。

 具体的には、「ティア1」と呼ばれる10カ国(欧州6カ国対抗のイングランド、スコットランド、アイルランド、ウェールズ、フランス、イタリアと南半球4カ国対抗の南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリア、アルゼンチン)が各3議席(計30票)。日本および欧州、北米、南米、オセアニア、アジア、アフリカの各地域団体が各2議席(計14票)。カナダ、米国、ルーマニア、ジョージア、フィジー、サモア、ウルグアイの7カ国が各1議席(計7票)。

 意思決定権の著しい不均衡。これが世界ラグビーの現実だ。

 だが、実はこれでも緩和されてきたのだ。ワールドラグビーの母体、旧称IRB(国際ラグビー評議会)は、1987年の第1回ワールドカップ(W杯)が開かれるまでは、わずか8の理事国で運営していた。上記「ティア1」10カ国から、イタリアとアルゼンチンを除いた8カ国で、「ファウンデーションユニオン」、「オリジナルメンバー」などと総称される。いわゆるラグビーの伝統国である。

 IRBは1987年に初めてのW杯を開催後、理事枠の拡大へと舵を切った。アルゼンチン、カナダ、イタリアと日本が新たに理事国入り。のちに世界6地域の地域団体にも理事枠(投票権)が開かれた。だが格差は依然残った。新規参入国・団体に1票が与えられたのに対し、「旧8カ国」には2票が与えられた。ラグビーの歴史の大半を築いてきた伝統国のエスタブリッシュメントたちは、実際の決定権を新参者たちに渡すつもりはなかったのだ。

グローバル化を目指したラパセ元会長。

 だが時代は移る。21世紀に入り、ラグビーも変革を迫られた。

 2008年、IRBの新しい会長に就任したベルナール・ラパセ会長はフランス人。初めて非英語圏から生まれた会長だった。ラパセは「ラグビーのグローバル化・オリンピック種目入り」を目標に掲げ、W杯2019年大会を初めて非伝統国である日本で開催することも推進した。これは、IOCに対する「ラグビーは世界的に普及しているスポーツなのです」というアピールでもあった。日本でのW杯開催が決まったのは2009年7月28日。それから半月後の8月13日、7人制ラグビーが2016年オリンピックからの追加競技に決まった。

 国際化路線は、必然的にガバナンス(法令遵守)とアカウンタビリティ(説明責任)を伴う。

 ラパセ会長のあとを引き継いで2016年に就任したボーモント現会長は、伝統国の“本丸”イングランド出身ながら、非伝統国であるアルゼンチン人のピチョットを副会長に据え、ワールドラグビーの改革姿勢を強調した。2018年、ワールドラグビーの理事枠はさらに大きく拡大された。ワールドラグビーのWebサイトは自ら「ヒストリック・モーメント(歴史的な瞬間)だ」と見出しをつけた。

 それまで上位国に肉薄する実力を持ちながら「ティア2」と位置づけられ、国際舞台では脇役だったフィジー、サモア、ジョージア、ルーマニア、米国の各協会に1枠が与えられた。同時に、女性理事が大量に登場した。それまで32だった理事枠は49まで17も拡大され、うち17を女性が占めた。

 この拡大は、ラパセ前会長時代の遺産でもあった。ラパセ前会長は自身の任期満了を前に、ワールドラグビー理事枠について指針を明文化した。2015年11月10日に行われた理事会で示されたのは、ガバナンス慣行、議事録などの報告、提供などが適切にされている上で、直近8年間のW杯出場歴、欧州6カ国対抗や南半球4カ国対抗への参加実績、さらにラグビーへの投資額、ワールドラグビー関連イベント開催歴、女子ラグビー、男女セブンズへの取り組みなどの評価基準を明示して、ワールドラグビー理事枠の根拠を示した。

 その結果、2018年11月にフィジー、サモア、米国、ルーマニア、ジョージアが、さらに1年後にウルグアイが18カ国目の理事国入りした。日本は投資額や女子、セブンズへの普及策など4項目を満たしたことで2票目を得た。女性理事を増やそうというワールドラグビーの働きかけで、日本の2枠目にはリオ五輪女子セブンズ監督を務めた浅見敬子氏が指名された。

【次ページ】 改革をもっと進めるべきか。

BACK 1 2 3 4 5 NEXT
ワールドラグビー
ビル・ボーモント
アグスティン・ピチョット
ベルナール・ラポルト
ラグビーワールドカップ

ラグビーの前後の記事

ページトップ