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「負ける」ことを思い知って急成長。
ノルディック複合・山本涼太の執念。
text by
山田流之介Ryunosuke Yamada
photograph byGetty Images
posted2020/04/30 18:00
FISワールドカップ・ノルディック複合の大会での山本涼太。目指すは北京冬季五輪でのメダルである。
まずクロスカントリーで「最善を尽くす」と……。
元々、山本はジャンプを売りにしている一方、クロスカントリーは苦手としている選手でもあった。今シーズンのW杯で、ジャンプのみの総合成績では7位と一桁の順位を達成しているものの、クロスカントリーの成績に限れば41位という結果に沈んでいることからしても、己の弱点は明らかだった。
「まずはみんなについていく。(クロスカントリーのコースの)4周全部を頑張る」というスタンスで、前を走る選手たちに無我夢中で食らいついていくことにした。ただただ自分の体が限界に達するまで、集団についていくことだけを意識した。
すると、少しずつではあるが成果が出るようになったという。
「まずはついていくところから、でした。でもシーズンの終盤には自分から仕掛けられるようになったり、すごく速い選手についていけるようになったので、クロスカントリーは徐々に良くなっていったと思います」
最終戦で掴んだ確かな手ごたえ。
今シーズンは、得意とするジャンプでも着実な成長を見せることができたシーズンとなった。
さかのぼること8カ月前、2019年の8月に行われた「サマーグランプリ」において、山本は予備飛躍ではあるもののジャンプで1位を獲得している。
ところがこのような順調な成長を見せるジャンプにおいても、「(ジャンプにおける)いい感覚は全く分からない」というコメントをしたのである。そもそも、ジャンプで成績が出るようになったのは、ほんの2、3年前のこと。「これなら飛べる!」というような、確かな自信を得る前に良い成績が出てしまった、という思いがあるようだった。
しかし、今年3月に行われたオスロでの最終戦において、山本はようやくある1つの感覚を掴むことに成功した。それは「冬のジャンプの感覚」と言うべきものであろうか――山本はこのように説明してくれた。
「夏場のジャンプ台と冬場のジャンプ台って、少し違うんですよ。冬の方が氷である分、アプローチが滑るんですよね。だから冬は(重心を)前に、つっかかった状態で入っていかないと(飛び出すタイミングが)遅れてしまうんですよ。でもその感覚が僕にはなくて。試しながらずーっとやってきて、やっと最終戦で『これだったら飛べるんだ』というのがわかりました」
世界のトップ選手と違って山本は1年中冬の季節での練習ができるほど恵まれた環境にいるわけではない。夏の日本で必死に練習を重ねる山本には、冬のスポーツたるノルディック複合の世界には、まだまだ見えない壁があった、ということだ。
そして、もう1つ意識したポイントがあった。
「『もう少しお尻を下げて、低い姿勢で滑らないといけない』というコーチとの共通の認識があったので、(お尻を)少し下げたんです」
この2つを意識して飛んだジャンプは、シーズン初のヒルサイズを超えた大ジャンプとなり、自己最高に並ぶ2位という好成績を叩き出すことになった。依然としてクロスカントリーで順位は落としたものの、この試合の順位もこれまた自己最高タイの9位をマーク。確かな成長を示して、シーズンの最終戦を締めくくれることになった。