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野茂英雄を癒した「SUKIYAKI」。
25年前に感じた温かい野球の記憶。 

text by

笹田幸嗣

笹田幸嗣Koji Sasada

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posted2020/04/25 20:00

野茂英雄を癒した「SUKIYAKI」。25年前に感じた温かい野球の記憶。<Number Web> photograph by AFLO

野茂英雄のメジャー挑戦は決して万人に応援されていたわけではない。「SUKIYAKISONG」はその孤独を癒したものの1つだっただろう。

ドジャースの「青い血」。

 5月2日のジャイアンツ戦で5回無失点でメジャーデビューを果たした野茂だったが、2戦目は海抜1600メートルの高地、ボールが通常より20%近く飛ぶと言われていたデンバーのクアーズフィールドで4回2/3で7失点。投手に本塁打を許すオマケもついた。そこから中4日で迎えたのがこの試合だった。

 カリフォルニア・ブルーの空の下、三塁側ベンチからとぼとぼとマウンドへ向かうメジャー未勝利の野茂の姿と『上を向いて歩こう』のメロディーが重なり、少しセンチメンタルな気持ちになったことを覚えている。

 ドジャーブルー。今でも聞かれるフレーズだが、当時のドジャースはこの言葉が代名詞だった。

 チームカラーの青にちなみ、トミー・ラソーダ監督の「私にはドジャーブルーの青い血が流れている」は、彼の決まり文句だった。黒人初の選手となったジャッキー・ロビンソンに門戸を開いた父ウォルター・オマリーオーナーの後を受けたピーター・オマリー氏が家族経営で率いるドジャースは、まさに血の通った温かみが何よりの売りだった。

上から目線の日本球界と違い……。

 野茂が'95年に教えてくれた話がある。当時のフレッド・クレアGMが選手、クラブハウス・スタッフ、関係者を前にして行ったチームミーティングでの話だ。要約すると以下のような内容だった。

「クラブハウスで働く皆さんは、選手が最大限の力を発揮できるように彼らをサポートしてください。フロントで働くスタッフもそれは同様です。例えば、ホットドッグひとつをとっても、『ドジャードッグがどこの球場のものよりも美味しい』とファンに言われるように我々は努力します。ですから、どうか選手の皆さんは、最高のパフォーマンスを発揮することに集中し、努力してください」

 25年前に聞いた『ONE TEAM』のストーリー。選手は最高のパフォーマンスをするために、周囲のスタッフは選手を最大限に支えるために、フロントスタッフは、球場にひとりでも多くのファンが足を運び、満足してもらうためにホットドッグの味に、最大限の努力を重ねる。

 上から目線の発言や行動が多かった当時の日本球界との違いに“これがメジャーの野球か”と心を打たれたのを覚えている。

【次ページ】 野茂がドジャースを選んだ理由は?

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