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イチローの辛辣で率直な言葉たち。
傍で聞き続けた人にだけ見えたもの。
posted2020/04/26 09:00
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
AFLO
『イチローフィールド』の著者、丹羽政善さんとはじめて会ったのは、1999年のインディアナでのことだった。
NumberのNBA特集の取材でインディアナに行ったのだが(この州はバスケット・マッド地帯である)、記者席で偶然にも隣に座ったのが丹羽さんだった。握手のために右手を差し出されたのが新鮮だったことを、いまも記憶している。
話してみると、これまた偶然にも同い年。当時の私はアメリカに住んでみたいという思いが強かったし、丹羽さんを羨ましく思った。それから20年以上、交流が続いている。
1999年の時点でインディアナにいた丹羽さんは、その後にシアトルに引っ越したが、たまたまというか、2001年にイチローがマリナーズに移籍してきた。すでに居住者だった丹羽さんは、イチローが現役を引退するまでその活躍を間近で見ることになった。
『イチローフィールド』は、時として禅問答のように聞こえるイチローの言葉を、取材者として傍で聞いてきた丹羽さんが、彼なりに読み解いていく趣向の本だ。
実は、丹羽さんはイチローの節目となる会見があれば、そのテープ起こしを私に送ってくれていた。イチローの言葉を聞き、文字にして、咀嚼する。丹羽さんはこの作業を続けてきたわけだ。
「僕、いくらもらってると思います?」
今回の本では、時系列にイチローの活躍を追うというのではなく、
「貫いたもの、貫けたもの」
「記録とは。そこにあるイチローの世界観」
「『頭を使わない』野球とは」
といったように言葉に焦点を当て、話が進んでいく。
中でも、私がいちばん印象に残ったのは、イチローのこの言葉だ。
「僕、いくらもらってると思います?」
これはシーズン262安打を記録した2004年の最終戦のあとに漏らした言葉だという。私も現場で会見を聞いていたが、情けないことに記憶にない。このあたりに、現場で取材を続ける記者の強みがある。
この言葉には、イチローのプロフェッショナリズムが凝縮されていると感じる。