熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
本田圭佑ブラジル移籍の仕掛人激白。
「4年越しの悲願」と交渉の舞台裏。
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byMarcos Leite
posted2020/04/13 20:00
本田圭佑をブラジルの地に導いたレイチ氏。2人ともに未知の世界に挑戦しようとの意欲を感じさせる。
具体的な条件が出てくると……。
そんな僕が「これは、ひょっとしたら」と思ったのは、1月30日。「本田がボタフォゴ入団の条件の1つとして、防弾車の提供を求めている」という記事を読んだときだ。
ブラジルの大都市は治安が悪い。高級車が銃撃されて停止させられ、強盗被害にあうことが少なくない。政治家や実業家、芸能人、スポーツ選手らの間では車を防弾仕様にするのが常識となっている。「これほど具体的な条件が話し合われているのだとすれば、本田が本気で入団を考えていておかしくない」と思ったのである。
この予感は、外れなかった。
翌1月31日、ボタフォゴが本田の入団を正式に発表。本田も自身のツイッターで、ファンに向けて「リオで会いましょう」とポルトガル語で語りかける動画を投稿した。クラブ側の発表だけならまだわからないが、本田自身が認めたのだから間違いない。わずか8日前、「絶対にない」と思ったことが実現したのである。
2月7日に本田がリオ国際空港に到着した際のファンの凄まじい歓迎ぶり、翌日のホームスタジアムでの大々的な入団セレモニー、そして3月15日のデビュー戦で見事なプレーを見せ、初得点も記録したのはご存じの通りだ。
それにしても、なぜ本田圭佑はボタフォゴでプレーすることを選んだのか。なぜボタフォゴは本田獲得を決断したのか。なぜボタフォゴ・ファンはこれほど強く本田獲得を望み、熱烈に歓迎し、その後も深い愛情を注ぎ続けるのか――。
張本人の代理人は物腰柔らかな……。
いくつもの「なぜ」がある。それを探るには、本田をボタフォゴへ連れてきた張本人に聞くしかない。代理人マルコス・レイチ氏である。
代理人という立場からして、すべての質問と疑問に明確に答えてくれるとは限らない。それは承知のうえで、本田のボタフォゴ入団の舞台裏を少しでも探ることができれば――と考えて取材を申し込んだ。
サンパウロ出身の40歳。童顔で細面、なかなかの美男子だ。物腰も柔らかい。海千山千のブラジル人代理人の中では異色だ。
元プロ選手でセンターフォワードとして国内の中小クラブ、クロアチアの小クラブなどでプレーしたが、30歳で現役を退いた。
その後、エージェント会社で働いて経験を積む。2018年にニューヨークへ渡ってスポーツ・マーケティングなどを学び、昨年末に帰国。サンパウロにエージェント会社を設立した。
数人のブラジル人選手の専属代理人として彼らのキャリアをサポートする一方、国内クラブのニーズを察知し、クラブと国内外の選手(とその代理人)の交渉の橋渡しをする。本田のケースは後者にあたる。そんな彼に質問をぶつけた。