セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
中村俊輔はレッジョで逞しくなった。
セルティックの英雄となる男の秘話。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byNaoya Sanuki
posted2020/04/11 20:00
日韓W杯落選後のセリエA挑戦。レッジーナで中村俊輔はプロサッカー選手として逞しくなった。
ドローンの空中カメラのように。
同年のCLで優勝するミランは、その後の決勝トーナメントでバイエルンやマンU、リバプールという強豪を次々に破ったが、延長戦まで追い詰めたのはセルティックだけだった。
相当悔しかったはずなのに、俊輔はいつものようにきちんとゲームを分析した。
「後半40分にペナルティエリアでMFアンブロジーニに倒された場面ですが」と水を向ければ、「あれは正当なチャージ。PKじゃない」と当意即妙の答えが返ってきた。
グラウンドでプレーしていたはずの彼は、まるで試合をドローンの空中カメラで記録していたかのように試合展開や位置関係を正確にそらんじて、こちらがいつも驚かされた。僕は、たったいま終わったばかりの試合のディテールを中村俊輔ほど即座に分析、言語化できる選手を他に知らない。
グラウンド目線と俯瞰の視点を両立させながらプレーできる凄さ。押しも押されもせぬ、いぶし銀プレーヤーになった今も、彼はきっとそうに違いない、と思う。
俊輔を追いかけ、サッカーの深層へ。
彼より上手い選手はいた。
彼よりタイトルを勝ち取った選手も大勢見てきた。
でも、俊輔のように、負けた姿も絵になる選手はそうそういない。
俊輔を追いかけながら、僕はセリエAや欧州サッカーの深層に少しずつ潜り、そこにある暗い闇に戦慄したり、ときどき見つかる宝箱のような選手やゲームに目を輝かせたりするようになった。
いまもイタリアに暮らす僕にとって、彼と過ごした日々は人生にいくつかある原点のひとつだ。
『Number』で仕事をするきっかけになったレストランは、イタリア半島のつま先で現在も何とか営業している。この災厄が終わったら、久しぶりに顔を出してみよう。
お店の名物、ペコリーノチーズの唐辛子ジャム添えを食べながら、オーナーや古い友人たちと俊輔の思い出話に花を咲かせよう。