F1ピットストップBACK NUMBER
前代未聞のF1開幕戦ドタキャン。
舞台裏の7日間で起きていたこと。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAFLO
posted2020/03/22 19:00
中止が決まり閑散とするピットレーンからスタッフたちが引き上げていく。FIAの決定はいかにも遅きに失していた。
イタリア、ドイツが次々と警告。
たとえばフェラーリとアルファタウリ(トロロッソから改名)の本拠地があるイタリアでは、政府が5日から国内のすべての学校を休校にする措置をとっていた。
イタリアだけではない。FIAの本部があるフランスでは前日285人だった国内合計感染者数が1日で138人増えて、423人に急増。王者メルセデスの本社があるドイツも国内合計感染者数が262人に急増し、保健相が「これはもはや世界規模のパンデミック」と警告を発していた。
多くのチームがオーストラリアでの入国拒否に備えて、オーストラリア行きの飛行機の旅程に関して、次善の策を講じていたほどだった。
しかし、F1の会長兼CEOを務めるチェイス・ケアリーは「1週間前にチームがオーストラリアへ向けて移動を始めたとき、われわれは正しい決定だと感じていた」とこのサインを無視し、開催への作業を予定通り進めた。
「やっぱり、お金なのかなあ」
2つ目のシグナルは、開催2日前の11日(水)に出ていた。この日、チーム関係者が仕事を行うエリアで、感染が疑われる病人が複数出た。彼らはすぐに新型コロナウイルスの検査を受け、ホテルで自己隔離となった。
そこで、主催者はファンとドライバーとの接触を避けるためにすべてのサイン会をキャンセル。さらにFIAとF1はドライバーと一部メディアとの接触を制限するために、テレビ局のインタビュー取材をキャンセルした。プリントメディアの囲み取材でも、各チームがドライバーとメディアの間にロープを張るという異常ともとれる措置がとられた。
それでもなお、FIAとF1、そして主催者は開催を断念することはなかった。冒頭のハミルトンのコメントは、このような状況となっていた12日に発せられたものだ。ハミルトンは、さらにこう続けた。
「僕はこの問題に対しては、ドライバーは自分の意見をはっきり言うべきだと思う。(感染が疑われたスタッフの検査)結果がわかるまでに5日ぐらい(つまりレース後まで)かかると聞いた。偶然にしても、ちょっとあり得ないよね。やっぱり、お金なのかなあ。僕にはわからない。とにかく、この週末、感染者が出ることなく終わることを本当に望んでいる」
しかし、その6時間後、検査の報告が入る。マクラーレンのスタッフのひとりが陽性という結果だった。この事態を受け、マクラーレンはオーストラリアGPからの撤退を発表。これが3度目のシグナルだった。