F1ピットストップBACK NUMBER
前代未聞のF1開幕戦ドタキャン。
舞台裏の7日間で起きていたこと。
posted2020/03/22 19:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
AFLO
「正直、僕はみんながここにいることに、すごく驚いている。今朝もトランプ大統領がヨーロッパからのアメリカへの入国を止め、NBA(全米プロバスケットボール)が試合を見合わせたというのに、F1は続行しようとしている。
ここにいるみんなはまるで普通の1日みたいに過ごしているけど、本当はそうじゃないはずだ。ここ以外の世界はどこもとんでもない状況になっているというのにね」
これは、F1の2020年の開幕戦であるオーストラリアGPを翌日に控えた3月12日(木)にFIA(国際自動車連盟)が主催した合同記者会見で、ルイス・ハミルトンが放った強烈なFIA批判である。
ハミルトンが指摘した“とんでもない状況”というのは、言うまでもなく新型コロナウイルスの感染拡大のことだ。
果たして、ハミルトンの危惧は的中。FIAはその18時間後の3月13日(金)の午前10時すぎにオーストラリアGPの開催中止を発表した。最初のセッションスタートまで2時間を切るという、前代未聞のドタキャンである。
何度も危険サインは出ていた。
なぜ、このような事態に陥ってしまったのか。ハミルトンが指摘したように、今回のオーストラリアGPを開催するべきではないというサインは何度も出ていたように思う。しかしFIAとF1、そして主催者は、それらの黄信号のシグナルをことごとく見落とし、立ち止まることなく進もうとした。その結果、開幕直前のキャンセルという大失態を演じてしまった。
中止を発表する1週間前に、時計の針を戻そう。このとき、最初の黄信号は出されていた。オーストラリアGPに向けて、レース関係者が出発する約1週間前の3月6日(金)のことだ。
この時点で新型コロナウイルスの感染拡大の中心がヨーロッパに移っていたことを考えると、確実に見通すことはできなかったとしても、事態の進展を予測することは十分可能だったはずだ。