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元日本代表が語る“ホッケー世界地図”。
さくらジャパンのライバルはどこだ?
text by
別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/03/27 11:00
圧倒的な実力に陰りが見えつつある女王・オランダ。本番での覚醒やいかに。
ライン際の「3Dドリブル」に要注目。
特に顕著なのが、ライン際の突破力。多くの選手がフィールドの端に追い詰められた時にも、平面の勝負に加えて、スティックの上でボールを弾ませて立体的に相手をかわす「3Dドリブル」を駆使して突破ができるようになっている。追い込まれたところから打開できる力がついているように思います。
そんな風に技術の高い選手が多いからこそ、試合での課題としてはペナルティコーナー等のセットプレーをしっかり決めることだと思います。FW陣を中心に攻めれば攻めるだけ、セットプレーの機会も増える。劣勢の試合であってもそういう数少ないチャンスをしっかりとものにすることで、格上と思われている国を相手にしてもリズムを崩すことができると思います。
いまの代表チームは、例えば合宿でも「きっちり決まった1日1.5~2時間という短時間の練習時間で全力を出しきる」ためのトレーニングをしています。オーストラリア人のアンソニー・ファリー監督が就任してからは、そういった実践的な練習が増えているように感じます。どちらが良い、悪いということではないですが、私たちの頃の合宿でよくあった1日7時間~8時間練習をするという形とは変わってきていますね。
その分空いた時間が増えるので、チーム全体で意思疎通を図るミーティングを重ねたり、ビデオを見たりして自分たちで研究する時間が増えている。そういうスタイルでチームも強くなっているのかもしれません。
目の前の試合に集中することの重要性。
世界大会などの大舞台では、やはり色んなことを考えてしまうものだと思います。「この試合に勝ったら」とか「あの国が勝ったから勝ち点は」とか、つい計算をしてしまう。でも、大舞台で結果を残した国の選手に話を聞くと「“目の前の一試合”に集中できた」という話をする選手が多いんですよね。ホッケーは予選リーグから決勝まで試合期間も長い競技ではありますが、そういうなかで平常心を保つことも非常に重要なのかなと思います。
自分の経験を振り返っても、2008年の北京五輪の初戦で、自分がアシストして得点を獲った時の喜びはいまでも覚えています。今の選手たちにも味わってほしい瞬間ですし、観客の皆さんにもその瞬間をぜひ期待してほしいと思います。
藤尾香織Kaori Fujio
1981年1月29日、東京都生まれ。ホッケーが盛んな山梨県の南アルプス市に移住したことがきっかけで競技を始める。大学1年時に日本代表初選出。アテネ、北京、ロンドンと3大会連続で五輪に出場し、2006年には世界最高峰のオランダリーグにも参戦した。2018年より品川区東京2020大会コミュニケーターとして、ホッケーの魅力を伝えている。