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筒香嘉智、MLB1年目に迷いはない。
「バット1本だけ持って勝負しに」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHirofumi Kamaya
posted2020/03/22 11:40
1月12日、筒香嘉智は中学時代に所属した堺ビッグボーイズで、選手たちと楽しそうに野球の練習に興じた。
「もしやり過ぎたら止めてくれ」
――まずはキャンプでどういう結果を残せるか。どういう評価を得られるかですね。
「いま思っているのは、とにかく自分のペースでやるということ。僕は日本でもオープン戦の試合が始まっても、最初の頃は絶対に打てないんで……。打てなくても、慌てないようにとだけは常に思っています。打てないとメディアの人を含めて、周りからはいろんなことを言われると思います。でも最後に打てば何も言わなくなるだろうし、とにかくそこに左右されないというか、自分のイメージは崩さずに行きます。
――マイペースを崩さないことが大切?
「自分が思っている以上に多分、ゆっくりした方がいいと思っています。だからサポートしてくれる人たちには、『もしやり過ぎたら止めてくれ』って言ってあるんです。すぐに結果が欲しくなるのは当然ですけど、そこでオーバーワークにならないこと。シーズンは長いですし、日程もしんどい。まずはキャンプからオーバーワークにならないことだけは気をつけます」
――バッティングについては、それこそメジャーを想定して、例えばポイントを近づけて逆方向に強い打球を打てるようにとか、時間をかけて準備してきたように思います。
「去年のシーズンでいえば、このオフに悩みたくないというのがありました。まだ(自分の打撃で答えを)探している状態にはなりたくなかった。だからわざとネガティブに考えるようにして過ごしました」
あえてネガティブに観察した理由。
――ネガティブに?
「自分では結構『何とかなるやろ! そんなの行ったれ!』って、いい意味での勢いの感覚があるんです。ノリではなく勢いですね。そういう勢いのあるときって風邪もひかないし、痛みも感じなかったりするけど、必ずそうなる理由がある。それで自分の中ではそういう勢いの作り方みたいなものが、分かってきた感じはあったんです。でも、実はまだまだ本当のものではなかった。
本当の勢いがあるときって、裏腹にめちゃめちゃ繊細になっているはずなんです。『行ったれ』って感覚の中でも、一歩引いて、冷静に自分を観ているはずなんですけど、まだ僕にはそれがないときがある。だから去年はいいときほど見落としをしないために、あえて自分をネガティブに冷静に観察していきました」
――あえて悪いところを探す感じ?
「いいとこはほとんど見てないですね、去年は。打ってもここがあかんな、投げてもここがあかんな、と」
――具体的には?
「バッティングで僕はテークバックしている一瞬に、自分の間を探りながら行くんですね。『インパクトでちょっと間を作ってあげたら、これが三遊間に行くのか?』、それとも『このまま打ちに行ったら、いい当たりだけどショートゴロになるのか?』とか。その一瞬を、練習からすごく大事にしている。
だから試合でもこのまま打ちに行ったらショートゴロになるって分かっていても、あえて打ちに行くこともある。それでその通りになると、『そりゃそうだよな』とか確認することもありました。逆に左中間にイメージ通りの強い打球が行っても納得するのではなく、あえて『いまのは体が反応しただけで自分の意図でやっているわけではない』とネガティブに探っていました。自分の精度を上げるために、去年はずっとそういうことをやった感じですね」
――それもメジャーに行くことを考えながらやっていた?
「すべてがという訳ではないですけど、行く時点で迷っていたくなかった。それだけです。メジャーに行っても、絶対に探さなければならないものがあって、苦労してもここを変えなきゃいけないとか、こういう感覚がいるなとか、そういう問題が絶対に出てくると思うんです。だからいま解決できることはやり終えて行きたかった。
アメリカで出てくる問題はOKだけど、こっちで解決しないまま、迷ったままで、また向こうで問題が起きるというのが嫌だったんです。だから自分が見落としていることがないかと、常にネガティブに自分を観察し続けてきたということですね」