スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
新型コロナウイルスと開幕延期。
アメリカ野球の復元力に期待する。
posted2020/03/16 20:30
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
Getty Images
2020年の大リーグ開幕が「少なくとも2週間」延期された。
当初は3月26日の開幕予定だったから、最速でも4月9日の開幕というわけだが、そんな安易な事態でないことはだれもが承知している。早くともメモリアル・デイ(5月の最終月曜日)のあとになるだろう、と推測する声は方々で聞かれる。
この1週間、アメリカでの新型コロナウイルスの感染者数は急激に増えた。
ブロードウェイの劇場は1カ月間の閉鎖を発表した。NBAやNHLはシーズンを中断し、MLBもオープン戦の中止を急遽決定した。
感染症学会の重鎮アンソニー・ファウチ氏が「人の集まる機会を、できる限り少なくしてほしい」という談話を発表したのも大きい。MLBとしても反論の余地はなかった。
第一次世界大戦より死者が多かったスペイン風邪。
アメリカ野球がパンデミックの脅威にさらされたのは、これが初めてではない。1918年から19年にかけて、スペイン風邪が世界中で猛威を振るったときも、動揺は大きかった。
スペイン風邪は、凄まじいパンデミックだった。
通称は風邪だが、当時新型のインフルエンザで、全世界の死者総数は5000万人から1億人の間にのぼったと推計されている。日本では35万から37万人、アメリカでも50万から70万人もの犠牲者が出た。
ほぼ同時期に起こった第一次世界大戦の死者総数が3700万人だから、被害の大きさには愕然とさせられる。
1919年の1月、サザンカリフォルニア・ウィンター・リーグ(1900年に結成されたセミプロのリーグ。1910年にいち早く人種統合を実践し、クラスAのレベルに到達したといわれる)の選手たちは、マスクを着用してプレーした。
打者と捕手、さらには球審までもが白いガーゼのマスクをつけた写真が残っている。ベンチの選手たちやスタンドの観客もマスク姿だ。掲載したのは〈ポピュラー・メカニクス〉という通俗的科学雑誌だったが、一瞥するだけで異様な印象が漂ってくる。