フットボールの「機上の空論」BACK NUMBER
ラトビアでサッカー指導者を志す。
ELに辿り着いた男のシンプルな選択。
text by
中野遼太郎Ryotaro Nakano
photograph byRyotaro Nakano
posted2020/03/18 20:00
ラトビア1部・FKイェルガヴァでコーチに就任した中野遼太郎。UEFA-Proライセンス取得を目指し、奮闘中だ。
「ピッチ外」が評価され、コーチに。
ラトビアはヨーロッパ圏で、旧ソ連から独立した、バルト三国の1つです。EUにも属しています。僕が今回このような記事を書く機会をいただいたのは、引退後もこのラトビアという小さな国に戻って「コーチとして働く」ことになったからです。
引退を報告した翌日には、クラブから電話があり、コーチのオファーをもらいました。
現役時代にそのクラブで選手として活躍したこともありましたが、僕が今回評価されたのは、主にピッチ外での振る舞いでした。日本でプレーしていた時の自分を知っている人の間では、時間を守らない、だらしない、とにかく髭が濃い、で通っている僕ですが、国が変わるだけで「NAKANOは真面目、人格者」となるのです。ポテチやチョコを断るだけで「あいつは節制している」となるのです。審判に無駄な文句を言わないだけで「あいつは感情をコントロールできる」となるのです。
ところ変われば、価値観も文化も物事の基準も変わって、いろんな評価がリセットされます。髭だって、ちょっと薄いくらいの層に落ち着きます。
大学を卒業してプロ、はほぼいない。
加えて「大卒」ということも後押ししてくれました。サッカーを「学問」として捉えている傾向の強い欧州では、指導者にとっての学歴や専攻が持つ意味は計り知れません。運動生理学やスポーツ心理学を学んでいる事は、時に選手経験を上回る需要があります。
と同時に、プレーヤーの視点からサッカーに目を向けると、(特に東欧においては)大学を卒業してからプロ選手になる、というルートはほぼ存在しません。誤解を恐れず言うと、大学に行くような人材は「もっと長期的に安定した職」に就いていきます。国の貧しさにも比例して、サッカー選手という職業はより生活に直結した場所にあり、悠長に大学に通っている余裕はないのです。僕は、この「大卒」と「プロ選手」という逆説的な2つの条件を満たしていました。
そして先ほども書いた通り、実際にプレーヤーとして活躍したこともあり、ラトビアの中では「あの日本人」としてある程度名前が知られている。引退したら日本で毎日納豆食べるんだ、と決意していた僕も、少しずつ思い直すようになりました。選手としてやってきたことが線として繋がっていく感覚を覚えたのです。