マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
10年で一番見たかったセンバツ。
無観客だったら伝えたかったこと。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/03/13 11:00
甲子園は高校生を劇的に成長させる。その機会が失われたことはひたすらに残念だ。
スタンドに人がいないからこそ見えるもの。
次に、「目」だ。
スタンドに応援団や観客がいないということは、選手たちが視線をスタンドにやることは、ファールが飛んでいった時ぐらいになる。スタンドに人がいれば、やはり何かと視線がスタンドに向く機会も多くなろうが、「無観客」なら、いつも以上に、視線をグラウンドに集中できる。
そういう時こそ、相手の選手たちの一挙一動に視線を注いでみてはどうか。
とりわけ、マウンド上の相手投手の挙動に視線を注いだら面白い。
人は、なくて七癖。歩き方ひとつ、話し方ひとつにも、本人は決して気がついていない「クセ」がある。
特に、ピッチングのような「高等技術」を行う時は、本人の集中度が上がり、余計無意識のクセが出やすくなる。
モーションを起こしてからクセの出る投手も多いが、それ以前からクセを見せてくれる投手も、高校生レベルなら結構いるものだ。そこを、みんなで見つけにいこう。
本気で探せば野球の楽しさは増える。
こんな投手がいた。捕手からのサインが変化球の時は、小さく2回うなずくのに、まっすぐの時はヨシッて感じで、はっきり一度うなずく。140キロ後半の速球自慢の本格派だった。
しょっちゅうロージンを拾いにいく投手が、時々手の平をユニフォームのお尻のところでふいている。手の平に汗をかく体質かもしれない……案の定、ボールのゾーンが高くてつかまった投手もいたし、一塁走者を目で殺しておいてからセットポジションに入る時は、牽制をはさまずに打者に投げてくる右腕もいた。
スタンドからの観戦でも、その気で集中して傾向をたどっていけば、初めて見る投手でも、結構クセは拾えるもので、そこは野球の大きな醍醐味の1つともいえる。
クセとは、無意識の「心理表現」だ。そう思って、こういう場面ではこういう心理になるだろうと想定を立てて観察してみれば、「あっ、あのしぐさは」、「あっ、こんな傾向が」そうした気づきと出会えることが、時としてある。
しかし、そういうつもりで視線を注いでいないと、気づきとは決して出会えない。そこも事実だろう。
耳を使って、目を使って、あとの「五感」は、触って、味わって、匂いを嗅いで…。さあ、次はどの感覚を駆使してみようか。