マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
10年で一番見たかったセンバツ。
無観客だったら伝えたかったこと。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/03/13 11:00
甲子園は高校生を劇的に成長させる。その機会が失われたことはひたすらに残念だ。
恨み言を言いたくもなるだろう。
「無観客決行」なら、そんな原稿を書いて、出場する選手たちが何人かでも読んでくれたら、いくらかでも実りある「センバツ」になるのでは……そんな祈りも、見えざる難敵に吹っ飛ばされてしまった。
一生に一度あるかないかの「甲子園」のチャンスだ。情として、選手たちが気の毒でならない。
どうして、オレたちが……と誰かを恨みたくなる気持ちにもついついなりがちだが、世の中、こうしたことはあることだ。
予定してとても楽しみにしていたことが、その通り叶うとは限らないのが、くやしいけれど「人生」というやつだ。
かっこいいスポーツマンとして。
今、選手たちは、センバツ決定から中止まで待たされた2カ月近くの間に溜まりに溜まった“何か”をぶつける場がほしいのではないか。
指導者の方たちが準備してくれた場所で、「なんで中止なんだー!」でも、「コロナのバカヤロー!」でも、なんでもいい。存分にあばれて思いきり“毒”を吐いたら、そのあとは、何もなかったような涼しい顔で、飄々とそれぞれの日常を過ごしてみるのはどうだろう。
そして夏になったら、当たり前のように再び「甲子園」の資格を獲得して、「春に出るはずだったのが、ちょっと遅れただけです」。高校球児なら、サラッとそれぐらいのことを言ってほしい。
それこそ、かっこいいスポーツマンの姿そのものだ。
それぞれの時代を、どう生きたのか。
そこで、人間の値打ちは決まるんだ。