マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
野球を才能以外の武器で勝つ方法。
社会人名門・東芝で聞いた面白い話。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2020/03/06 11:35
才能に溢れた選手が次々とプロへ進んでいく社会人野球には、プロとは異なる勝ち方があるのだ。
相手の投手の思惑を想像する。
チームスポーツであり、同時に個人競技の要素も色濃い「野球」の中で、投・打の駆け引きは、個人の部分の最も象徴的な場面であろう。
「相手の投手が、自分をどんなふうに料理しようとしているのか……そこを想像するのが“駆け引き”の入り口だと思うんです。自分のことを、怖いバッターだと思っているのか。うるさいバッターだと思っているのか。長打を打たれたくないのか、塁に出したくないのか。
試合の状況も考え合わせて、そのへんがどうなのかを想像して、次は、自分が投手ならどう攻めるのか、攻めたいのか。どこをどう突いて、どんな打球を打たせたいのか。そこまで検証できれば、自然と相手の配球が見えてくる。それを逆にひっくり返せば、投手にとっての“配球論”になってきますし……」
エース級は次々とプロへ抜けていく。
社会人野球は人の出入りが激しい。
身体能力と野球センス抜群のルーキーが入ってきても、技術と経験を積み重ねて、2年ですぐにプロへ巣立っていく。
事実、東芝も昨秋のドラフトでエース・岡野祐一郎が中日(3位)に、2年目の新鋭・宮川哲が西武(1位)にそれぞれ指名されて、プロへ進んだ。
選手のパワーと技術だけに依存していては、「誰かが抜けると、すぐ弱くなる」、そんな体質から抜けきれない。
その代わりに、「駆け引き」のできる選手を揃え、それを語り伝え、教え伝えてチームの「伝統」にしていけば、チーム力の波のない永遠の強豪を構築できるのではないか。
昨夏の都市対抗で4強に進出。ならば今年は「黒獅子旗」か……そんな期待をかけられる中、現実にはエース格の投手2枚がいなくなって、状況としては間違いなく「危機」であろう。
そのわりに、東芝キャンプは静かに淡々と進行していた。