マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
野球を才能以外の武器で勝つ方法。
社会人名門・東芝で聞いた面白い話。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2020/03/06 11:35
才能に溢れた選手が次々とプロへ進んでいく社会人野球には、プロとは異なる勝ち方があるのだ。
コーチと監督が投手の紅白戦。
紅組の先発は、新垣勇人ピッチングコーチ。一昨年までプロ野球・日本ハムで現役をつとめていたチームのOBである。
そして、対する白組の先発が、チームを率いる平馬淳監督だ。
横浜高、法政大学、東芝と常にチームの主軸として活躍。シドニーオリンピックに選手として出場し、プロ野球ベストナインと同等に“激戦”といわれる「社会人野球ベストナイン」を受賞すること2回。さらに、2008年には、選手として都市対抗野球で優勝している。
紅組先発・新垣コーチ。
一昨年までプロ現役だけに、コンスタントに140キロ近いスピードの速球に100キロ台のカーブで打者のタイミングを外しながら、スライダー、チェンジアップも交える本番さながらの投球内容。
しかし、これが結構打者に捉えられている。
一方の、白軍先発の平馬監督。
投げるボールはほとんどが、110キロ前後のカットボールとツーシーム。このボールを、東芝の強打者たちが打ちあぐむ。
ホームベース付近の手元でクッと動かされ、緩いボールだから、このやろー! と気負って打ちにいく体勢を、みんな崩されている。
よーく見て投げる、ということ。
よく見ていると平馬監督、モーションに入る前に、打者の様子をものすごくよーく見ている。
よーく見て、何かを感じて、それからモーションに入ってくる。そんなふうに見えた。
「汗ビッショリになって投げる140キロが、簡単に打たれる。遊びみたいに投げている100キロ、110キロがなかなか打たれない。なぜか? そこを、選手たちに感じてもらいたくて」
以前、平馬監督がこんなことを話してくれたことがある。
「僕にとってのいちばんの野球の面白さって、ピッチャーとバッターとの間の駆け引き。そこですね」