マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
引退した広島・庄司隼人との再会。
フロント入りしても野球の虫は健在。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2020/02/19 11:40
広島のキャンプに庄司隼人の姿はない。しかし、野球との新しい関係性を築く日々はすでに始まっている。
ベースランニングは技術の塊。
見ながら走る。確かに「野球」というスポーツは、前だけを見て一目散に突っ走る場面はほぼない。打ち損じの内野ゴロだって、捕球→送球する相手野手の様子を、横目で捉えながら走る。
「たとえば、打球が外野の頭を越えたら、バッターランナーはまず打球の様子を見て、外野手の動きを見て、前にランナーいたらその動きも見て、三塁のベースコーチを見て……視線を送るポイントが4つも5つもあるんです。自分が踏むベースも、一瞬見ないといけないし。
そのたびに視線が動くから頭も動きますし、頭が動けば、体重の7分の1ぐらいの重たいものが首の上でグラグラ動くわけですから、ボディバランスのコントロールもしなきゃいけない。走るスピードはどうしても落ちがちになるんですよ」
中には、ほとんどスピードが落ちないどころか、ロングヒットのほうが加速が効いているように見える選手すらいるという。
庄司隼人選手は、現役当時、そこのところを磨いて、ちょっと自信を持っているという。確かに、ウエスタンリーグの試合結果を見ていると、庄司選手、“6秒3”のわりに三塁打が多かった。
「野球のベースランニングって、スピードよりむしろ技術だと思うんです。すべてのスポーツの中で、1辺25メートルぐらいの正方形をいかにコースロスなく、一瞬の状況判断をしながらスピーディーに走り回る競技なんて、他にありませんよね」
なるほど……。そのわりに、日頃のベースランニングの練習は単調で平凡。早く終わらないかなと思いながら漠然と走っているのが、野球の現場の現実であろう。
「野球の虫」の理論が止まらない。
「点取りスポーツの野球で、その“点取り”にいちばん直結しているベースランニングの練習が、結構ほったらかしになってると思いませんか?」
その通りだ。思った通り、話が面白くなってきた。
「ロングヒットや一塁ランナーとしてのエンドランの場合は、顔が右方向、つまり外野方向を向きながら走る時間が長いわけですから、普段の練習でも、そこをポイントにすれば、顔が右方向を向きながら全力疾走できるボディバランスや技術を獲得できる。
一塁ランナーだと、必ずバッターのインパクトの瞬間を確かめてから、打球方向に視線を移す。ならばベースランニングの練習の中で、右見て、左見て、また右見て、左見て……左右を交互に見ながら、直進してターンする。そういう練習を取り入れてもいいですよね。どうせならアップの時のランニングに、そういうベースランニングの技術的要素を含めてもいいじゃないですか」
「野球の虫」の理論の展開が広がって止まらない。