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田村優がつないだ「10番」は誰に?
頼もしい、若き司令塔たちの躍動。
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byNaoya Sanuki
posted2020/02/06 11:50
日本が次のステージに進むためには、若き司令塔の成長は欠かせない。この冬は学生カテゴリーで期待できるSOが多く現れた。
18歳らしからぬ冷静さと大胆さ。
もうひとり、4年後の日本代表の司令塔候補に赤丸急上昇してきたのが、全国高校大会で神奈川の桐蔭学園を悲願の単独初優勝に導いた伊藤大祐だ。
18歳とは思えない冷静沈着な判断力と、大胆に勝負する強気のデシジョンメーク。
奈良県代表・御所実との決勝ではその能力が惜しみなく発揮された。後半16分、相手キックを捕るや迷いなくカウンターアタック。相手ディフェンス2人の真ん中を突き破る一気のゲインで敵陣に入り、トップスピードのままFBへパス。味方の逆転トライをアシスト。続く27分にも自陣からショートパントを蹴って自らチェイス。ドリブルで敵陣深くに攻め込むと、鮮やかなDGを蹴り込んで勝負を決めた。ゲーム・コントローラーとして試合を掌握し、自ら走り、蹴り、勝負所で必ず働く。
「前半はキックを蹴りすぎて、自分たちのペースを作れなかったけど、後半は腹を括って、ボールをキープして攻めました。(3-14と)リードはされていたけれど、相手の穴ができやすいところは見えていたし、冷静に突くことができた」
劣勢の試合展開でも、味方と相手の強みと弱み、疲労状況を的確に把握し、そこに自ら体を張れる。
柔道で養ったコンタクトプレーの強さ。
福岡県生まれだが、全国優勝の常連である地元の東福岡高には進まず、あえてそのライバル、神奈川の桐蔭学園へ進学。1年でCTBのレギュラーポジションを掴み、2年ではFBで出場。そして3年の今季は司令塔のSOに。
179cm、85kgの身体は、数字よりも大きく分厚く見える。それは幼少時の格闘技経験からきているかもしれない。5歳から小4まで柔道道場に通い、小3では九州の軽量級チャンピオンにも輝いた実力者だった。
しかし小5からは、柔道と並行して小1で始めていたラグビーに集中。
「柔道はコーチが厳しくて、早く辞めたかった。ラグビースクールのコーチは優しかったんです(笑)。でも、柔道の経験は今に活きていると思う。低い姿勢を作ったり、地面に転んだときに回転して衝撃を逃がしたり、タックルしても脳しんとうにならないとか」
そんな、コンタクトプレーへの自信の故だろう、伊藤はアタックでもタックルでも相手から逃げない。逃げないから味方の走るスペースが空く。走れて蹴れて、周りが見える。そして体は鋼の強さを持つ。
2023年のW杯時は、伊藤は22歳になっている。若手には違いないが、世界を見たらそんなことは言っていられない。とはいえ、世界に羽ばたくにはもっと経験値を上げる必要がある。4月から早大に進学する伊藤が、大学の枠に収まらない経験を積めるか。2023年の司令塔争いに食い込めるかどうかは、そこにかかっている。いっそ、サンウルブズに練習生として呼んで欲しいくらいだが……。
次のW杯までに、若き司令塔候補たちは、どんな経験を積み、どんな実力を身につけるだろうか。そして、フランスの地で、サクラの10番を背負うのは誰だろう?