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千丸剛を「本物」と感じた者として。
野球を人生の全てにしてはいけない。

posted2020/02/06 11:40

 
千丸剛を「本物」と感じた者として。野球を人生の全てにしてはいけない。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

2017年夏、中村奨成を擁する広陵を倒して甲子園の頂点にたどりついた花咲徳栄。千丸剛はそのまさに中心選手だった。

text by

安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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photograph by

Hideki Sugiyama

 忌まわしい出来事に、以前、一度でもグラウンドで言葉を交わした者が関わっていたというのは、なんとも悲しい気分にさせられる。

 たいして驚きはしなかった。

 これまでに何度もそうした“衝撃”にさらされて、もちろん良いことではないのだろうが、慣れっこになっているのかもしれない。

 しかし、一方で、「訃報」に接するより、さらに深い悲しみを感じるのはなぜだろう。

 花咲徳栄でキャプテンをつとめていた千丸剛二塁手に会ったのは、彼が高校3年の春だ。その数カ月後、チームは夏の甲子園の覇者となる。  

 取材をこの連載で記事にした、その一部を、ここに挙げてみたい。(初出2017年8月28日公開 『「練習は嘘をつかない」は嘘だ。花咲徳栄の練習場で見た本物の実戦。』)

――

 高度な練習を続ける中で、キラリと光る存在感を漂わせていたのが、キャプテン・千丸剛二塁手だった。

 俊足・好守の2番セカンドとして、ある時はつなぎ役であったり、チャンスメーカーであったり、また走者を置いての勝負強さも抜群だからポイントゲッターとしても機能して、相手チームにとってはこんなに怖い存在もいない。

 この千丸剛の内角速球のさばきが天下一品なのだ。

 この甲子園、千丸剛は内角速球をライト方向へ切れないライナーで5本の長打、単打を弾き返してみせた。

 そんな“名人”が、その一本バッティングの合い間に、バットの振り始めの左ヒジの入れ方をチームメイトに教えている。

 千丸剛は左打者だから左ヒジになるのだが、内角の速いボールは両腕のたたみ込みという技術がないと、バットの芯で捉えられない。その“たたみ込み”の準備動作になるのが、後ろのヒジの入れ方になる。

 脇を締めながら、いかに後ろのヒジを瞬時に胸の前へ入れてこられるか。この動作は、インサイドアウトのスイングの初動にもなるので、内角だけでなくすべてのコースへ合理的にバットを出すことの基本になってくる。

 千丸剛がライト方向だけでなく、左中間方向へも球勢の衰えないライナー性の打球を弾き返せるのは、そのせいだ。

 そんなとっておきのワザを、3番・西川愛也に、4番・野村佑希に、彼が手取り足取り教えている。

 準々決勝の盛岡大付戦のことだ。

 野村佑希が盛岡大付の左腕・三浦瑞樹の内角低目を、レフトポール際にライナーで叩き込んだ一打。普通に打ったら、ファールにしかならない難しい足元のボールを、ライナーのホームランにしたとっさの技術。

 千丸に打たせてもらったな……。

 ついうっかり、そんなふうにつぶやいてしまったものだ。(引用ここまで)

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