Number ExBACK NUMBER
J開幕前のスター、サントスが見た
“王国静岡”の高校サッカー。
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/01/22 15:00
Jリーグ開幕以前、サッカー界の晴れ舞台は高校サッカー選手権だった。アデミール・サントスの名は今も色あせない。
「高校サッカーの人気にびっくりしたね」
サントスさんは静岡に来たときの印象を、次のように語る。
「カズから教えてもらっていたけど、高校サッカーの人気にはびっくりしたね。ブラジルではユースの大会に5万人も入るなんてありえないから。技術レベルも思ったより高かった。東海大一のチームメイトでは、大嶽(直人)、澤登(正朗)、吉田(康弘)の3人が上手くて感心したね」
続いてサントスさんは、東海大一に通うことになった経緯も教えてくれた。
「来日したときは、どこに通うかはまだ決まっていなかったんだ。で、居酒屋に強い高校の監督たちが集まって、なにか相談している。どんな話をしたのか知らないけど、そこで東海大一に行くことが決まったんだ」
当時としてはかなり珍しい、高校サッカーの外国人留学生。その第1号は静岡の地を踏み、争奪戦となった。
それは自然の成り行きだった。全国を制するよりも、静岡で勝つことが至難の業だったからだ。王国からの優勝請負人は、来日2年目にして見事にその使命を果たしたのだ。
'93年のJリーグ発足を境に、静岡勢は徐々に国立から遠ざかった。これは彼らが弱くなったというより、日本中が強くなった、各地が静岡のようになっていったと言ってもいい。
王国のお家芸、ドリブルでの優勝。
そんな中で今年、静岡学園が快進撃を見せ、24年ぶりの優勝を母校に、そして静岡県にもたらした。
ただ勝っただけではなく、勝ちかたも素晴らしかった。とりわけ2連覇を狙う王者、青森山田を破った決勝は、0-2からの大逆転に加えて、お家芸のドリブルを駆使した攻撃で大観衆をうならせた。オールドファンは胸を熱くしたことだろう。
静岡に足を運ぶたびに私がうれしく思うのは、いまも王国の香りがそこはかとなく漂っていることだ。
例えば。清水エスパルスの本拠地、日本平では、ホームチームがバックパスをするたびに冷たい空気が流れる。
その空気を言葉にすると、「そんなサッカー、わしらは知らん」。