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J開幕前のスター、サントスが見た
“王国静岡”の高校サッカー。
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/01/22 15:00
Jリーグ開幕以前、サッカー界の晴れ舞台は高校サッカー選手権だった。アデミール・サントスの名は今も色あせない。
長谷川健太も感じていた日本平の圧。
地元のレジェンド、長谷川健太さんが監督をしていたころ、そのことをある選手にたずねたことがある。
その選手は私の見方に同意して、「気持ちはわかるんですけど、後ろに戻さなきゃいけないときもあるってことをわかってほしいんですよ」とこぼしていた。「自分のような他チームから来た選手には、なかなかつらいものがある」とも。
やはり、この地のお客さんは見る目が肥えている。厳しいのだ。
静岡に流れるサッカーの文脈。
王国の空気が流れるのは、スタジアムだけではない。
日本平でゲームを見て、清水駅前の飲み屋に行く。話の流れで日本平で試合を見てきたというと、常連たちがレジェンドたちの若かりし日のエピソードを語り出す。
「だれそれは親友の妹と付き合っていた」といった、濃い話がポンポン出てくる。
ある年配のタクシー運転手さんが、「清水出身の私は、'60年代から強かった藤枝に憧れていたんですわ」といって、藤枝銘菓“サッカーエース最中”を買った思い出を熱く語ってくれたこともある。
こういう人々に出会うたびに私はうれしくなり、「この人たちは物心のついたころから、いいサッカー見てきたのだろうな」と羨ましくなるのだ。
静岡学園が優勝を飾った決勝の生中継は、静岡地区で平均29.9%、瞬間最高46.5%という記録的な視聴率を叩き出した。
静岡の人々は久しぶりにまたひとつ、県民のだれもが語り合える伝説を持った。サッカー王国の伝統は、令和の時代も紡がれていく。