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レアルとバルサのバルベルデに見る、
未来を切り開く「勇気ある決断」。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2020/01/16 11:50
中盤インサイドハーフとして、マドリーの定位置を奪いつつあるバルベルデ。競い合う相手がモドリッチというのも豪華な話だ。
流動的な中で果たす重要な役割。
今大会、カリム・ベンゼマ、ギャレス・ベイル、エデン・アザールといったアタッカーを怪我などで欠くマドリーのジネディーヌ・ジダン監督は、いわゆるクリスマスツリー型の4-3-2-1システムを採用。1トップのルカ・ヨビッチの下にイスコとルカ・モドリッチを配し、その後方にトニ・クロース、カゼミーロ、フェデの3人を並べた。
ヨビッチを除くMFの5人がめまぐるしくポジションを入れ替えながら、じわじわと敵陣を侵食していくようなサッカーは魅力的に映ったが、そのなかでもフェデは、ときに右ウイングのように振る舞いながら、持ち前の縦への推進力をもたらすとともに、フォアチェックにカバーリングにと、守備での貢献も非常に高かった。
もっとも、高い確率で枠を捉えるミドルシュートやワンフェイントで相手を置き去りにする足もとの高等技術も含め、今大会のフェデは言ってみれば「通常運転」。アトレティコとの決勝でより際立っていたのは、ビッグセーブを連発し、PK戦でも相手の2人目、トマス・パーティーのキックをストップした守護神ティボウ・クルトワだっただろう。
失点を阻止する一発退場の決断。
それでもフェデがMVPに選ばれたのは、勝利を引き寄せる「特別な決断」があったからだ。
延長後半まで0-0でもつれ込んだ115分、アトレティコのアルバロ・モラタが、カウンターからGKクルトワと1対1のシーンを迎える。この時、モラタを追走していたフェデは、ペナルティーエリアの手前でわずかな迷いもなく、背後からその左足を刈り取った。みずからのレッドカードと引き換えに、決定機を阻止したのだ。
未来のことは誰にも分からない。アトレティコがこのファウルで得たFKから決勝点を奪っていたら、ひとり少なくなったマドリーが残り数分の延長戦を持ちこたえられなかったら、あるいはフェデが戦犯になっていたかもしれない。
けれど、マドリーは勝った。フェデの決断が、勝利をもたらした。結果論だとは思わない。勝利の確率を瞬時に計算した上でのタックルが、未来を切り開いたのだ。
フェデ本人はこう振り返っている。
「本来はやるべきではないプレーだし、アルバロ(モラタ)にも謝りたいけれど、あれが、あの場面で自分に残された唯一の選択肢だった」
まだ21歳である。これからどこまで成長するのか末恐ろしいが、翻ってフェデと同じ日本の東京五輪世代の中で、同じ状況を迎えて、とっさに同じ決断を下せる選手がどれだけいるだろうかと考えさせられもした。勝利に非情になるとは、こういうことを言うのだ。