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春高バレーの過密日程に「ノー」。
高校生の努力に報いる策はあるのか。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byKyodo News
posted2020/01/16 11:40
最後の春高は準々決勝で駿台学園に敗退した水町泰杜(鎮西)。高校卒業後は早稲田大学に進学予定だ。
「トップカテゴリーと同じ対応を」
選手に生じるリスクを減らす、という面で言えば、たとえば足が攣る選手が多い、という事象を1つとっても、改善するための策はあると言うのは金蘭会の中野仁トレーナーだ。
試合が行われる会場内は温かいが、移動中や屋外との気温差が大きい春高では、運動量以上に水分も消費し、体循環が悪くなるため下半身が冷える。それが試合中に足を攣る一因にもなるため、金蘭会の選手には試合前に300mlを目安に水分を摂取することを義務付け、より吸収を高めるべく公式練習前には経口補水液を飲み、5セットマッチになれば試合中にアミノ酸やクエン酸を含んだゼリー飲料を摂取させている。
こうした知識があるだけでも、事前に対策し、少しでも足が攣るリスクを減らすための準備もできる。春高期間中はサブアリーナに学生トレーナーによるストレッチやマッサージのブースが設けられているが、中野氏は「大切なのは試合前と直後にどんな準備、対策ができるか。生徒という扱いではなく、このレベルまで来たらトップカテゴリーと同じ対応をすることが大事」と説く。
昨年からトレーナーの帯同が許可され、試合中も事前登録したトレーナーがベンチの横に待機することができるが、すべての学校にトレーナーがいるわけではない。遠方の学校からすれば、遠征費や勝ち進むごとに増える滞在費もあり、すべての部員を帯同することもままならない中、トレーナーに予算を組むのは難しい現状があるのは否めない。
だが、高校生だから強行スケジュールもOK、という今のままではあまりに負担が大きすぎる。高校生バレーボール選手にとって最も華やかで、最も注目を集める大きな大会だからこそ、少しでも万全に近い状態で戦うことができるように。トレーナーの帯同を今すぐ義務付けるのはまだ難しくとも、出場校にはトレーナーや栄養士などの専門家による講習を行うなど、選手がベストな状態で戦うためにサポートできる方法はあるはずだ。
大人たちができることは何か。
想像してほしい。
ベスト8をかけた激闘に臨み、身体と心、頭に疲労を抱えた状態でサブアリーナに戻り、1時間も経たぬ間に今度はもっと強い相手とベスト4、センターコートをかけた戦いに臨む。ボロボロになってようやく勝利しても、準決勝と決勝まではわずか15時間。
それが本当にアスリートファーストだろうか。
多くのカメラや記者に追われ、悔しくとも涙をこらえ、こらえきれずに嗚咽しながらも、10代の選手たちは真摯に対応する。これがアスリートの義務だ、と言わんばかりに。
ならば、大人ができることは何か。万全の状態で戦える環境をつくることではないだろうか。さまざまな事情があり、変えることは容易いことではない。だが、変えなければならないことを、見過ごしてはならない。過酷な状況にも打ち克ち勝者となった高校生の努力に報うためにも。そして、苦しみ、葛藤しながらも「変わろう」と1年を費やし、それでもなお、敗れていった高校生たちのためにも。