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高校バスケ王国・福岡の頂上決戦。
第一と大濠、それぞれの365日間。
text by
古川明Akira Furukawa
photograph byKyodo News
posted2020/01/08 08:00
試合終了後、福岡第一(白のユニフォーム)と福岡大大濠の両校選手は感極まった表情で健闘をたたえ合った。
「第一以外には負ける気がしない」
この大敗で自信を失ったのが大濠の横地だった。将来を見据え、得点も取れる大型ガードとしての成長を期待されていた。WC出場を逃した2018年11月から基礎を見つめ直し、体育館にドリブル練習の音が延々と響く日が約2カ月続いた。
しかし、またも第一の守備を破れず。「パスを出せなかった。自分がガードをやっていいのかという思いがある。得点面でも対策を練られるなら、それを上回る技術を身に付けるために個人練習を増やさないと」。直後に控えていた関東遠征の「辞退」を申し出たほどだった。
PG横地にこだわった片峯聡太監督もついにコンバートを決断。PGには成長著しい平松克樹(2年)を起用した。第一が苦手としていたゾーン守備も整備し、2-3システムの中心にエースを据えてインターハイ予選に臨んだ。
横地を中心としたゾーン守備は機能し、第一のミスを誘う。第2ピリオド途中で18点のリードを奪った。今度こそ勝てる――。そこに立ちはだかったのは第一の河村だった。
連続得点とアシストで前半終了時点で7点差まで詰め寄られると、後半は大濠の足が止まり、71-78で屈した。その後、鹿児島で開催されたインターハイに福岡県代表として臨んだ第一は、北陸との決勝を48点差で勝利するなど、圧倒的な強さで大会を制することになる。
本大会前、大濠はインターハイ出場校の練習試合の相手として何度か胸を貸していた。その試合に勝つたびに悔しさは増していく。
「第一以外には負ける気はしない」(西田公陽主将・3年)。
大濠の体育館には第一のような冷房設備がない。蒸し風呂のようなコートをとにかく走り込んだ。
思いが詰まった横地の3点シュート。
すでに両校が出場を決めていた11月のWC福岡予選決勝は、大濠が途中27点のビハインドからオールコートプレスなどで盛り返すなど、拮抗した展開に。最終的には60-69で第一に屈したものの、「第一を走らせない」というテーマを1試合通して達成できたのは初めてだった。
WC本戦に入ると、2回戦で難敵開志国際を倒して勢いづいたチームは、試合を重ねるごとに成長。第一の神田壮一郎(3年)が「全員が積極的で、泥臭さがこれまでと違った」と称した大濠もまた、王国の代表に相応しいチームとなっていた。
決勝は横地の3点シュートで幕を閉じた。
本大会前に控え組に回される屈辱も味わうなど、1年間苦しみ抜いた男は、大会を通して大濠の真のエースであることを証明した。最後のシュートを決める横地の目には、涙があふれていた。
すでに勝負の行方は決まっていたが、それでも「最後はお前が決めろ」と託してくれた恩師や仲間に応えた。「1年生のときは我関せず、2年生ではわがまま」と評していた片峯監督も温かい眼差しを向ける。
横地は大会後、恩師と「おかげさま」を合言葉にWCを戦ったと明かした。みんなが自分を生かしてくれていることに気付けた。「最後の最後に勝てばいい」。繰り返してきた言葉が叶うことはなかったが、その借りは次のステージで返すことになる。