“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
青森山田戦は昌平サッカーの分岐点。
「育てて勝つ」指導と来季への期待。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/01/07 08:00
1年時から10番を背負うMF須藤直輝(2年)。青森山田戦でも反撃のゴールを決めた。
「このスコアをどうひっくり返すか」
痛恨のミスからの追加点、さらに前半だけで3失点。並みのチームであれば、この時点で勝負は決するだろう。だが、それでも昌平の信念は揺るがず、折れない。
ハーフタイムに藤島監督は選手たちにこう問いかけた。
「このスコアをどうひっくり返すか。ゴールに向かうシチュエーションをどう増やすか。よりゴールに近い、直結する動きを出して、ラインの裏を取る動きということにフォーカスしてやろう。相手の粘り強い守備を感じる中で、いかに自分たちのクオリティーを出せるか。それをやればゴールは絶対に奪える」
この言葉に活力をもらった選手たちは、下を向かず、息を吹き返す。
49分、相手のパスに素早く反応したFW小見がボールを奪い取ると、その瞬間に左サイドから中央のスペースに須藤が猛ダッシュ。小見から正確なスルーパスが送り込まれた。須藤はスピードを落とさずにワンタッチで前に落とし、GKが飛び出してくるタイミングを見て、右足でコントロールシュート。ゴール左隅に流し込んだ。
そして75分には、ボランチ柴のボール奪取から落ちてきた鎌田までつながると、鎌田は引き込むトラップで反転し、右足アウトサイドで浮き球のスルーパスを送り込んだ。そこに斜めに走りこんできた交代出場のFW山内太陽が右アウトサイドのワンタッチで飛び出してきたGKをかわしてゴールに流し込んだ。
2点ともまさに昌平の「縦に速いサッカー」を象徴するようなゴールシーンだった。
昌平としてのステージを上げた試合。
だが、反撃もここまで。劇的な同点ゴールは生まれず、昌平の選手権はベスト8で幕を閉じた、だが、この一戦はチームの歴史にとって重要な意味を持つ試合となった。
「ディフェンスでもっとボールを奪う技術とか、大舞台で力を発揮することも必要だと痛感しました。攻撃ではブロックや強度の高い状況下でいかに運べるか。今日も鎌田などが運べるシーンもあり、『やれるな』と思う反面、実際に勝負強さというのは絶対にないといけないし、やっぱり点を取るポイントだったり、守りきるポイントだったり、『試合巧者』という面で考えると、青森山田と黒田剛監督の強さを感じた。でも、立ち上がりからガツンと来る相手に対して、どう戦って勝ちに持っていけるのか。相手の強度をいなす力と跳ね返す力の両方を求めてやっていきたいと強く思いました」(藤島監督)
青森山田は、覚悟を持った選手たちを鍛え、結果を出し続けてきたことで“青森山田たる所以”を作り上げてきた。ならば昌平も、内容と結果をリンクさせながら“昌平たる所以”を作り上げていく。そういう意味で、今回の敗戦が1つのターニングポイントとなったことは間違いない。
「我々がボールを持つというスタンス、技術のクオリティーを上げることはこれからも信念を持ってやり続ける。でも、それがサッカーのすべてではない。勝負にこだわることもしないといけないし、この試合がまた1つ考えを積み重ねる機会になったと思います。昌平としてのステージを上げてくれました」(藤島監督)