マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
球数制限で投手が足りないって本当?
野球の指導者たちに聞いてほしい話。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byAFLO
posted2019/12/24 07:00
ワールドシリーズ優勝投手になった上原浩治が本格的にピッチングを始めたのは高校3年生だった。
ピッチャーがいない、って本当か。
こんな話が、レジェンドの口から始まった。
「たとえば、1週間500球の球数制限だ」
日本高野連が、来春のセンバツから実施すると指針を明らかにした。
試しに3年間、これでやってみましょう! その様子を見てまた考えましょうという、まずは「試用」である。
「この前、公立高校の監督さんたちの集まりに顔を出したら、ウチは使えるピッチャーが1人しかいないって、みんな頭を抱えてるんだ」
そこでレジェンドは、僭越ながら……とこんな話をしたという。
「ピッチャーがいない、いないって、ほんとにいないのか確かめたことはありますか? 部員ひとりひとり、マウンドから投げさせて、ほんとのところ、コイツどんなボール放るんだ? って確かめたことありますか?」
中学軟式の指導者ごときが、と怒られるかなと思ったら、みんな黙ってこっちの顔を見ていたので構わず続けたという。
「キャッチボールでちょっといいボール投げてる子に、試しにマウンドから投げさせたら唸るようなボールを投げて、こっちがビックリ! そんなこと、中学野球の現場ではよくあるんです。聞いてみると、小学校では外野しかやってない。でも、ほんとはピッチャーやりたいです。そういう子って、高校野球の現場にも実は隠れているんじゃないでしょうか」
投手をやりたい人は多いはず。
そもそも、中学で投手だった、外野だった……というのは一体誰が決めたのか。
「中学の指導者やってるオレが言うんだから間違いない。中学の時のポジションの信憑性なんて、ほとんどあてにならない。半分以上は自己申告でしょ」
ピッチャーやりたくても、自信がなかったり引っ込み思案だったりする生徒は、どうしても“控えめ”に外野手を志望したりするそうだ。
「選手たち、ほんとはどこをやりたいのかなと思って、遠慮、ウソなしで、自分がやりたいポジションに集まれ! って言ったら、50人ぐらいの部員の37人がマウンドに集まっちゃった。それ聞いて別の中学で同じことやったら、こっちは9割がマウンドに集まった。いるんですよ、ピッチャーやりたい! って、内心で意欲燃やしてる選手が」
探してみないで、試してもみないで、いない、いない……じゃ、指導者として、あまりにも芸がないでしょう。
言いそうになって、そこまで言っちゃあ失礼かと、言葉を飲み込んだけどね。
レジェンドが赤い顔で笑った。