第96回箱根駅伝出場校紹介BACK NUMBER
同校初の3年連続シード権を狙う拓殖大学。
中央学院大学は悔しい昨季の雪辱を期す。
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箱根駅伝2020取材チームhakone ekiden 2020
photograph byNanae Suzuki / Yuki Suenaga
posted2019/12/19 11:00
中央学院大学
第95回箱根駅伝(前回大会):10位
18年連続、21回目
大手町で流した涙は忘れない。
苦い記憶をバネに目指すアンカーでの好走。
文=杉園昌之
前回の第95回箱根駅伝は、中央学院大学史上初となる5年連続のシード権を獲得。
それでも、1月3日の大手町で笑っている者はひとりもいなかった。目標の総合5位からは、はるかに遠い10位でフィニッシュ。どんよりとした空気が漂うなか、ビルの片隅で肩を震わせ、涙をこぼしている選手がいた。10区に抜てきされた当時2年生の石綿宏人だ。9位でたすきを受け取り、拓殖大学に抜かれて顔をゆがめながらフィニッシュ。
フィニッシュ後、すぐに川崎勇二監督の怒号が飛んだ。
「なんのためにお前をアンカーで起用したと思っているんだ」
競り合いの強さとラストの切り替えを買われてアンカー区間を託されたものの、持ち味を全く発揮できずに途中から失速。箱根駅伝の雰囲気にのまれたのだ。脱水症状に近い状態となり、脚を動かせなくなった。
初めて走った箱根路は、苦い記憶として石綿の心に深く刻まれている。
「役割を果たせませんでした。監督の言葉にはぐうの音も出なかった。悔しくて、情けなくて、自分にがっかりしました。最低でも9位は守らないといけなかったです。箱根駅伝のシード権は取れましたが、僕のせいで全日本大学駅伝のシード権は逃しましたから」
「リズム、ピッチを早く」
苦しくて10km以降の景色は、ほとんど覚えていない。唯一目に浮かぶのは、1kmごとに沿道に立っていた黄色のジャンパー姿。中央学大の部員が掲げたボードには「リズム、ピッチを早く」と書かれていた。何度も同じ指示を頭で反芻したものの、身体が言うことを聞いてくれなかった。
「箱根駅伝の借りは箱根駅伝でしか返せない。前回のリベンジをしたいです。アンカーでまた走らせてもらえるならば、今回こそは順位を上げます」
鶴見中継所から大手町までのコースをイメージし、この1年間、地道に練習に励んできた。3月の学生ハーフマラソンでは1時間3分3秒の自己ベストを記録。ケガをしていた4月下旬から6月上旬までの時期を除けば、ずっと課題と向き合って走ってきた。秋以降は、10区で四苦八苦した向かい風の対策に力を入れている。
「リズムとピッチを落とさず、身体が開かないようにしています。スピードを落とさず、小さく走るイメージです」
チームで取り組む、単独走にも強くなった。30kmの距離走もひとりで淡々とタイムを刻み、復路に求められる走りを強化。10月の出雲駅伝は出走しなかったものの、11月の全日本大学駅伝では8区でエントリー。川崎監督からはハッパをかけられていた。
「全日本で失敗したら、次はないぞ」
奮起しないわけがない。箱根駅伝のテストを兼ねていることを理解していた。