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200億円の補強資金よりも頼もしい、
ランパードのチェルシー育成哲学。

posted2019/12/17 11:40

 
200億円の補強資金よりも頼もしい、ランパードのチェルシー育成哲学。<Number Web> photograph by Getty Images

エイブラハムらの成長を促したランパード監督。新生チェルシーの長期プランは実を結ぶのだろうか。

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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 去る12月6日、FIFAによるチェルシーの補強禁止処分が解けた。厳密に言うと、CAS(スポーツ仲裁裁判所)への控訴成功により処分が半減したのである。

 元々は2度の移籍市場での補強禁止だったが、今夏の市場で処分に従っていたことから、来たる1月の市場では戦力購入が許されることになった。

 最終的に処分の対象となった、移籍関連の規則違反件数は当初の約3分の1。サッカー界の“お上”にチェルシーは「極めて遺憾」との公式声明を出したが、FIFAによる審査は「一体何だったのか?」と感じざるを得ない。

 しかしニュースを知った瞬間、筆者は「解けた!」ではなく「解けてしまった」という心境だった。今季開幕から4カ月間のチェルシーは、補強禁止による怪我の功名が「極めて絶大」に思えたからだ。

10月の月間最優秀監督はランパード。

 審査結果が出る前月、プレミアリーグが発表した10月の月間最優秀監督は、フランク・ランパードだった。

 クラブ歴代得点王のレジェンドは、昨季のマウリツィオ・サッリ体制下に存在した、サポーターとの心の溝を即座に埋めた。それと同時にファンに不評だった繋ぎにこだわる前任者とは違い、躍動感に満ちたサッカーを実現し始めた。

 監督が個人賞を受賞した10月は、全勝したリーグ戦3戦で9得点。そのうち4得点は、8歳からチェルシーのアカデミーで一緒にプレーしてきたタミー・エイブラハムと攻撃的MFのメイソン・マウントが、1ゴール1アシストずつで絡んでいた。

 補強禁止処分が下されていなかったら――つまり、ハンディがなかったとしたら、監督キャリア1年の41歳ランパードが、後任に抜擢されなかったに違いない。助監督を務めるジョディ・モリスをはじめ、アカデミーでの指導経験者が多い新体制誕生もあり得なかった。

 また、2部クラブから戻ったエイブラハムとマウントには、プレミア中小クラブに再びレンタル移籍する今季が待ち受けていただろう。

【次ページ】 自家製の選手たちが育つ高揚感。

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