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200億円の補強資金よりも頼もしい、
ランパードのチェルシー育成哲学。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2019/12/17 11:40

200億円の補強資金よりも頼もしい、ランパードのチェルシー育成哲学。<Number Web> photograph by Getty Images

エイブラハムらの成長を促したランパード監督。新生チェルシーの長期プランは実を結ぶのだろうか。

自家製の選手たちが育つ高揚感。

 昨季ランパードが指揮したダービーで、主力として終えたCBフィカヨ・トモリは、チェルシーで先発を重ねながらイングランド代表デビューをすることもなかったはず。

 19歳で今季を迎えたリース・ジェイムズが一軍経験を積むことも、デビュー1年目の昨季、出場機会を求めて移籍を望んだカラム・ハドソン・オドイが、新たに5年契約を結ぶこともなかったはずだ。

 新監督は東ロンドン生まれの「イーストエンダー」だが、実はチェルシーを愛する「ウェスト・ロンドナー」を自認する。自家製の若手数名が主力化を期待させるランパードの“ヤング・ブルーズ”は、強豪に成り上がってタイトル数が急増する陰で薄れる一方だった、純粋な「チェルシー色」を表現しているのだ。

 攻撃的スタイルと合わせたクラブ独自のアイデンティティ。それはビッグクラブとなっても確立できていなかったからこその「無形のトロフィー」だ。

 今季はホームのスタンフォード・ブリッジにも一体感と高揚感が漂う。16節終了時点で首位リバプールと勝ち点17ポイント差の4位。昨季の同時期は同じく首位リバプールと8ポイント差の4位だったが、格段にムードが良い。

 指揮官も選手も若いチームが、余分なノイズとプレッシャーのない環境で、後半戦は長期路線の下地を固めることができる。補強禁止処分は悪くないどころか、好ましいとさえ思えた。

補強解禁で短期視野復活の可能性が。

 しかし補強禁止がもたらした長期的視野が、補強解禁に伴う短期的視野に再び置き換えられる危険性が生じてしまった。

 チェルシーにとって、「若手」と並んで縁のなかった言葉に「辛抱」がある。

 過去15年間で正監督交代が9回、100人近い即戦力選手が加入してきたのが、チェルシーである。冬の補強が可能になるや否や、投資家ビザ更新問題もあり物理的にクラブから遠ざかっていたロシア人富豪オーナーが、再び意欲を取り戻したと噂されている。

 また、メディアでは「1億5000万ポンド(約210億円)」の補強予算が組まれたと騒がれた。1億ポンドをジェイドン・サンチョ(ドルトムント)1人に費やすとの説まである。

 それと同時に高まるのが、新監督へのプレッシャーだ。

 チェルシーの指揮官には、タイトル獲得とトップ4という最低ラインが求められるが、補強がない前提で就任したランパードに、具体的なノルマが示されていたとは思えない。つまり、トップ4争いに絡みながらのトップ6止まりでも許されたはずだ。

 だが、シーズン半ばにある程度の補強予算が割かれるなら、フロントは短期間での成果を要求しかねない。

【次ページ】 1億ユーロでサンチョを獲るとの噂。

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