メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
MLBの待遇を上げた男が殿堂入り。
労使協定、年俸調停、FAという功績。
posted2019/12/13 11:50
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
AFLO
日本のプロ野球に「労使協定」が存在しないことが、取得までの年数が長いFA制度や年俸調停制度の形骸化に繋がっているという内容のコラムを前回書いてすぐ、メジャーリーグ機構とプロ・スポーツ初の「労使協定(Collective Bargaining Agreement )」を締結したメジャーリーグ選手組合の初代委員長マービン・ミラー(2012年逝去)がとうとう、米野球殿堂入りを果たした。
ミラーの経歴はとても簡単には書き記せないが、その後の野球界を大きく変えた重要な3つの功績を年次ごとに挙げるとすれば、こうなる。
1968年 プロ・スポーツ界初の「労使協定」を締結。
1974年 年俸調停制度の導入
1976年 フリーエージェント(FA)制度の導入
ミラーはきっと、FA制度導入=保留制度の廃止に貢献した選手たち=カート・フラッドやアンディ・メッサースミス、デーブ・マクナリーと同様、「FAの父」として評されるだろうが、それはミラーが最初にやった大仕事である「労使協定」の締結なしには成し得ないことだ。
労働組合に所属されている会社員の方ならご存じだと思うが、「労使協定」というのは会社と労働者の間で取り交わされる約束事=労働条件を書面契約した協定のことだ。
就業時間や残業手当など、就労に関する決まり事がすべて記載されている協定書であり、その変更には「団体交渉」による両者の合意が必要になる。
ルース、ロビンソンと並ぶ功績。
ボストン・グローブ紙の重鎮ピーター・ガモンズが、ミラーの米野球殿堂入りが発表された8日の夜、MLBネットワークでこう言っていた。
「メジャーリーグの長い歴史の中で、野球界を変えた重要な3人がいます。それはベーブ・ルースとジャッキー・ロビンソン、そしてマービン・ミラーです。野球殿堂が彼を迎え入れたことは本当に素晴らしい」
ベースボールを「国民的娯楽」に押し上げた本塁打王と、人種の壁を突き破った偉大なアフリカ系アメリカ人選手に、選手組合の初代委員長を加えることにまったく異議はない。ただし、彼が最後に付け加えた「迎え入れた」という部分については、少し説明が必要かも知れない。