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MLBの待遇を上げた男が殿堂入り。
労使協定、年俸調停、FAという功績。 

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ナガオ勝司

ナガオ勝司Katsushi Nagao

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posted2019/12/13 11:50

MLBの待遇を上げた男が殿堂入り。労使協定、年俸調停、FAという功績。<Number Web> photograph by AFLO

現在のMLB隆盛の礎を築いたマービン・ミラー。選手の地位向上が、全体の繁栄に繋がった。

5度のスト、3度のロックアウト。

 野球界においては門外漢だったものの、鉄鋼労連のエコノミスト兼委員長補佐や大統領の全米労使問題委員会のメンバーとして、25年に渡って労働者の側に立って労使問題に取り組んできた自負は強かった。

「組合活動では利害関係が生じるもの」とコミッショナーやオーナーたちの懐柔策に対してNOを突き付け、オーナー側に取り入るメディアを含む大勢の人々を敵に回しながら「労使協定」を勝ち取ったのだ。

 以降、試合数や登録選手数の変更など、あらゆる労働条件の変更には団体交渉による合意が必要となり、一定期間を経て新しい「労使協定」が締結される度に団体交渉が行われるようになった。

 年俸調停制度やFA制度導入の過程では何度も球団側と対立し、通算8度(選手組合による通算5度のストライキと、経営者側による通算3度のロックアウト)のStoppage=日程停止が行われ、その度に選手の待遇改善が行われてきたのだ。

団体交渉が搾取の構造を変えた。

 ミラーが最初の目標とした「最低年俸額」は、1万2000ドル(1ドル110円換算なら132万円)から今や55万5000ドル(6105万円)にまで上昇した。

 今年のFAで最大の目玉だったゲリット・コールは9年3億2400万ドル(356億4000万円)でヤンキースと、ワールドシリーズ最優秀選手賞を獲得してFAとなっていたスティーブン・ストラスバーグは、7年総額2億4500万ドル(269億5000万円)という記録的な大型契約でナショナルズと再契約した。

 それもこれも、選手組合がメジャーリーグ機構と「労使協定」を締結したからこそ、成し得たことだった。団体交渉によって搾取構造から脱却し、野球界全体が潤うような球団と選手の関係を構築したのだ。

 その功労者ミラーは唯一無二の存在ではあるが、ジャッキー・ロビンソンのように突破口を開いた他の多くの人物同様、他の誰かがそれを代わりに成し遂げていた可能性はある。それは彼自身も自覚しているようで、著書『A Whole Different Ball Game』の最後にこう書いている。

「規制なき独占に対する防波堤となる仕事は、誰かがやらねばならないことだった」

 アメリカだろうが、日本だろうが、それはきっと同じだろう。

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マービン・ミラー

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