メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
MLBの待遇を上げた男が殿堂入り。
労使協定、年俸調停、FAという功績。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byAFLO
posted2019/12/13 11:50
現在のMLB隆盛の礎を築いたマービン・ミラー。選手の地位向上が、全体の繁栄に繋がった。
収益構造が変わり、チームも増えた。
かつてのように全米ネット局の中継の順番を待ちわびる時代は終わり、それぞれの地域を拠点とするローカル・ケーブル局が巨額の放映権料を支払って試合を生中継する時代となった。
飾り気のなかった野球場には広告が溢れ、内、外野のフェンスでさえも、(日本のプロ野球のように)広告収入の貴重な財源となった。ホットドッグとピーナッツとビールだけの時代から、ステーキやローストビーフやシャンパンが野球場で楽しめる時代になった。
安い立見席はほとんどファン・サービスの場となり、億万長者を対象とした豪華なラグジュアリー・ルームが一番の収入源となる時代に変貌した。
ミラーが選手組合の長となった時代に20球団だったメジャーリーグは、今や30球団になり、さらに数を増やそうとしている。
かつては開催に反対意見もあったというプレーオフは、今やワールドシリーズ出場への最後のラストスパートとして人気を博し、メジャーリーグ全体を潤す貴重な収入源となっている。
御用組合から、選手のための組織に。
ミラーが就任直後、最初に手掛けたのは選手の「年金」と「健康保険」のみで、次に「選手雇用に関する基本条約」の明文化、最初の目標は「年俸調停」でも「FA」でもなく、「最低年俸額」の改善だった。
ミラーの前任者は「好きな野球をやって暮らせるのは幸せなことであり、野球ほど経営者と選手がうまくやっているスポーツはない」などと選手たちをなだめて「御用組合」を束ねていた。
しかし過密日程や医療設備の不備、根性主義からくる投げ込みによる故障などの劣悪な労働条件を目の当たりにして、当時の野球選手を「アメリカ合衆国でも最も搾取されている労働者」と認識し、その改善に尽力することになった。