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早稲田大10番岸岡智樹の軌道を見よ。
数学を学ぶラガーマンの「到達点」。
 

text by

藤島大

藤島大Dai Fujishima

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photograph byYuki Suenaga

posted2019/12/08 11:50

早稲田大10番岸岡智樹の軌道を見よ。数学を学ぶラガーマンの「到達点」。<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

SNSの発信でも話題を集める早稲田大SO岸岡智樹(4年)。SH齋藤直人とのコンビでチームを高みへと導けるか。

理科系の特進コースでオール5。

 東海大学付属仰星高校時代に日本一。ラグビーと同様、勉学にも力を発揮した。理科系の特進コースで常にオール5。自己推薦で早稲田の教育学部数学科に進む。実は「オール5」を疑っていた。きっと「4.8」くらいでは。それでも許される範疇の誇張だ。

 流通経済大学との春の公式戦の直後、上井草グラウンドの芝の上の即席インタビューで「本当?」と確かめてみると、手の甲にそっと蝶のとまる口調で「はい」と言った。いまのたとえ、いっぺん他の媒体で用いた。本当は倉庫にしまわなくてはいけない。でも、ほかに思いつかない。軽くて自然な「はい」によってオール5伝説は事実と認定された。

この人だけを追うとおもしろい。

 試合中の岸岡智樹も、蝶の軌道を描く。決して、高速で直線的に動こうとしない。ふわり、丸く、焦らず、蜜のある場所をめざす。パスを渡し、また渡し、そのつど、角度を調整しながらグラウンドを音もなく回遊する。春、そこについて聞いた。録音を確かめると、概略、こう話している。

「僕の走るコースの到達点は決まっている。それに向けて最短を走るのではなく、若干、大回りをしたり、ふくらんでみると、全体が開けて見えることがあるんです。首を振らずに情報を取る。(仲間からの)声による情報も必要なのですが、それだけではなく視界が大事。百聞は一見に如かず、ではないですけど、自分の目で見ることを意識しています」

 大事なパスが自分めがけて放られる寸前、すーっと、そこに到達していればよい。はやって立つと視野が限られ、窮屈になる。代数学をよく学んだ大学生は、国際経験豊富な大ベテランのごときコツをつかんでいる。

 足が速い。イメージを裏切り、実は身体は強靭、タックルだって弱くない。ただし、どんな接戦であろうとも「100%」のスピードやパワーに頼らない。5割、7割。中庸な速度を保ちながら、スペースや29人のポジショニングを凝視、せっせと情報を収集および処理する。早稲田の試合をスタジアムで観戦できたら、この人だけを追うとおもしろい。

 4年後、8年後、ワールドカップに姿があったら(可能性はある)「あのときと同じ動線」と自慢できる。

【次ページ】 論理を知るから論理の外へ出られる。

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