ラグビーPRESSBACK NUMBER
早稲田大10番岸岡智樹の軌道を見よ。
数学を学ぶラガーマンの「到達点」。
posted2019/12/08 11:50
text by
藤島大Dai Fujishima
photograph by
Yuki Suenaga
珍しい足踏みかな。いや、跳躍のために膝を折った瞬間だ。
岸岡智樹。早稲田大学ラグビー部4年。背番号10。日本代表なら田村優のポジションである。つまりピアノを運ぶ人でなく弾く人。木を伐り出す男ではなく、その木を研ぎに研いだ指揮棒を振る男。
12月1日の関東大学対抗戦。四半世紀ぶりの「早明全勝対決」では、やや精彩を欠いた。 7-36。 勝たせることが務めだから大敗すれば不調とくくられても仕方がない。8日前、辛勝の早慶戦(17-10)でも絶好調とは映らなかった。今季、自在のゲーム制御で観客をうならせてきた学生随一のプレーメーカーは「普通にできる(このままでも大学日本一になれる)」と「もっと個性を発揮する(このままではなれない)」の間合いを測るようでもあった。
ありがたきは古き敵にして友、慶應義塾の意地、明治の地力のおかげで早稲田のありのままの現在地は明らかとなった。
SNSで発信に、敵も「勉強してます」
早慶戦の前。慶應のある部員が冗談口調で言った。
「岸岡のツイッターでラグビー、勉強してます」
半分は本当だろう。SNSでの旺盛な「ラグビー論」の発信は、じわじわと評判を呼んで、つまりは好敵手のクラブの者たちを途切れずフォロワーとさせる。広く質問を募り、誠実かつ率直に答えてみせる。昔、ある総理大臣の答弁が「言語明瞭、意味不明」と揶揄された。ならば岸岡智樹は「言語明瞭、意味明確」というところだ。ラグビーにおけるコーチングの秘訣のひとつは「複雑を簡潔に」(往年のニュージーランドの名指導者、フレッド・アレンのモットー)。ちょっと、そんな感じもする。