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巨人「一軍昇格拒否事件」に見る
阿部慎之助二軍監督の使命。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2019/11/29 20:00
秋季練習のスタート前にあいさつする巨人の阿部二軍新監督(中央)。
一軍が勝つための選手をどれだけ送り出せるか。
「二軍の高田(誠)監督との連係が非常にうまく機能したことも1つのポイントでしたし、それが育成という点でも成果だった」
原監督もこう振り返るように、今季の巨人は増田大輝内野手、戸郷翔征投手など一軍初昇格の選手の活躍も5年ぶりのペナント奪回の1つの力となった。
その一方で二軍では成績を残しながら一軍ではなかなか結果を出せなかった高田萌生投手、大江竜聖投手などもいた。
そうした選手たちをいかに育て切れるか。一軍が勝つための選手をどれだけ送り出せるか。そこが阿部監督の最大の使命であり、そのことを阿部監督自身がしっかりと意識している。アワードでの発言は、そのことがしっかり伝わってくる言葉だったのである。
育成のためには勝つことを犠牲に。
二軍に求められるのは勝利ではない。ある意味、ファームは勝たなくてもいい。必要とあらば勝てない投手でも経験を積ませるために起用しなければならないし、スランプの打者でも、将来に結びつくのであればしっかり打たせて経験を積ませなければならない。
「だから今年は先取点を取るために1回からいきなり送りバントとかはさせずに、できるだけ選手に打席数を与えるようにしました」
高田前二軍監督(現ファームディレクター)の言葉である。
育成のためには勝つことを犠牲にしなければならない場面はある。むしろその方が多いのかもしれない。だからファームの監督は勝つことで評価をしてはならないのである。
もちろん阿部監督が二軍でどんな結果を残すかは未知数だ。ひょっとしたらぶっちぎりで優勝するかもしれないし、今年の4位という成績以下に終わるかもしれない。
ただ、確実に言えるのはたとえイースタン・リーグで優勝しても、逆に最下位になっても、そこが評価基準ではないということだ。
そこが分かっていない人が、特に評価する側の関係者に多いことが、これまで巨人が育成面で停滞してきた1つの原因でもある。