JリーグPRESSBACK NUMBER
「無理せず、慌てず、攻め急がず」
J2徳島に根付くリカルド監督の思考。
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/11/21 11:30
徳島に「つなぐサッカー」を根付かせたリカルド・ロドリゲス監督。まずは昇格プレーオフ圏内に入り、J1昇格を目指す。
敵のプレスをチャンスに変える。
田向はもう一歩踏み込んで、パスコースの作り方について端的に教えてくれた。
「敵を引きつけることで、そこから生まれるスペースを突きます。これは正直、適応が難しいサッカーですが、1年やってきて少しずつわかってきた印象ですね」
これで腑に落ちた。敵のプレスを受けることが、チャンスにつながる。
そのことを知っているから、徳島の選手は寄せられても慌てない。むしろ、寄せてくるのを待っているのだ。敵のプレスを受けながらボールをつなぎ、いつの間にかチャンスが生まれる。
2-1で勝った東京V戦でも、そうしたシーンが何度もあった。47分に生まれた2点目は、まさに徳島の真骨頂。
左サイドのスローインから右へ回し、右から中央に入ってもう一度右に展開。右サイド深く侵入した田向からの折り返しを、ファーサイドでフリーになった河田篤秀が押し込んだ。
17本のうち、勝負パスは2本。
起点となったスローインを含め、実に17本のパスがつながったゴール。このつなぎで特筆に値するのは、いわゆる勝負パスが2本しかないことだ。スローインからの15本のほとんどは、横パスやバックパス。縦につけても、すぐ戻す。
観る人によっては「縦に入れろ」、「勝負しろ」と怒り出すかもしれないが、これがリカルド流である。
スペイン生まれの指揮官は、3年前の就任会見で自身のポリシーについてこう語った。
「やりたいのは“ポジショナルプレー”です。簡単に言うと、相手のボールを素早いプレッシャーで奪い、できるだけ長い時間ボールを保持してゴールを目指していく」
リカルド監督は影響を受けた指導者に、同郷のペップ・グアルディオラを挙げているが、実際にペップの確立したポジショナルプレーが徳島に色濃く反映されている。
無理せず、慌てず、攻め急がず。
敵のプレスを適度に受けながら、いいポジショニングとテクニックを駆使することでボールをつなぎ、最後のところで勝負を仕掛ける。このスタイルには、無理をしないことで体力の浪費が抑えられ、頭と身体がフレッシュなままでプレーできるという利点がある。