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「楽しんできます」はどうして妙か。
アスリートの抱負の聞き方、答え方。 

text by

堀井憲一郎

堀井憲一郎Kenichiro Horii

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photograph byAFLO

posted2019/11/17 11:00

「楽しんできます」はどうして妙か。アスリートの抱負の聞き方、答え方。<Number Web> photograph by AFLO

出発するアスリートに意気込みを聞く、というやりとりは定例になっている。その応答もアップデートしたいものだ。

公的なお金うんぬんは話と関係ない。

 この件の反応についてもうひとつ。

「楽しんできます」コメントを批判するときに、「他人のお金を使って出てるのにそういうことを言ってはだめだ」という理屈を言ってる人がいる。これはこれでなんか変である。

 たしかに日本代表選手には公的なお金が使われることが多いのだろう。でもそれとこれとは別の話で、根本は言葉遣いの問題でしかない。それを「われわれのお金も使われているのだから“楽しんでくる”のはだめだ、お金を出した人のためにも精一杯やる姿勢を見せなさい」という注意は、けっこうずれているとおもう。

 経済論理を押し通してそれで人の共感を呼ぼうとしているのを見ると、うちの社会には「お金」以外に共有できる基準がないのだな、とあらためて驚いてしまう。

 彼らが完全に丸ごと国と団体から金を出してもらっていようと、すべて自分で払って自腹で行っていようと、「抱負を聞かせてください→楽しんできます」というやりとりでは会話が成り立っていないのは変わらず、彼ら彼女らの「ディスコミュニケーション世界の構築」という姿勢は変わっていない。

 どうもこのコメントもまた、“勘違いから生まれた奇妙なマナー”のひとつのようにおもえる。

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