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奇怪なシリーズと本命の敗因。
ナショナルズが修正したエースの癖。 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2019/11/09 11:30

奇怪なシリーズと本命の敗因。ナショナルズが修正したエースの癖。<Number Web> photograph by Getty Images

ストラスバーグの癖が見抜かれていることに気づいたナショナルズのベンチ。勝敗を分ける大きなポイントだった。

ターナー、レンドンの復帰。

 ナショナルズの今季前半も、惨憺たるものだった。最初の50戦が19勝31敗。主砲ブライス・ハーパーが抜けて結束力が強まるかと思っていたのに、序盤の不安定な戦いぶりは前途の厳しさを予感させるものだった。

 ところが5月上旬、トレイ・ターナーやアンソニー・レンドンが戦線に復帰すると、チームは様変わりした。55歳の監督デイヴ・マルティネス(レイズとカブスでジョー・マドン監督の下についていた)も、着々と成果を挙げる。心臓の持病が悪化し、9月中旬には入院治療を受けたこともあったが(シリーズ第6戦で球審に猛抗議して退場させられたときは、見ていてひやひやした)、オールドスクール(旧派)に属するその采配は、意外にも好成績に結びついていった。

 そういえば、1997年にワイルドカードからワールドシリーズを制したマーリンズのジム・リーランドや、同じ道筋で2003年にシリーズを制したジャック・マッキーオン(マーリンズ)もやはり旧派の監督だ。当時72歳のマッキーオンなどは、「なにもしないのが一番」といわんばかりの風情だった。

エースの癖を修正したナショナルズ。

 それはともかく、ナショナルズ勝利のキーポイントはいくつか考えられる。

 最大のポイントは、第6戦でエースのスティーヴン・ストラスバーグが投球する際の癖を見抜かれていることにベンチが気づき、ただちに修正の指示を出したことではないか。

 つい2年前のワールドシリーズ第7戦、アストロズは、ドジャースの先発ダルビッシュ有の癖を完全に見抜き、初回と2回に合計5点を奪って勝負をつけた。古くは2001年のシリーズ第6戦で、ヤンキースの先発アンディ・ペティートがダイヤモンドバックスに癖を見抜かれ、2対15で敗れた例もある。

 ひとつまちがえば、初回に2点を失ったストラスバーグもその轍を踏むところだった。5回裏にも1死2、3塁で打席に強打のホセ・アルトゥーベを迎えるという大ピンチに立たされる場面があった。

 だがストラスバーグは、この危機を三球三振で乗り切った。初球は、チェンジアップで空振り。2球目はカーヴでファウル。そして3球目、ワンバウンドするほど低く外れた球をアルトゥーベが空振りして、アストロズは絶好のチャンスを逃した。

【次ページ】 乱世の幕開けか、一過性の狂いか。

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