Number ExBACK NUMBER
メンタルも「作法」も独特すぎる。
10代囲碁名人・芝野虎丸の流儀。
text by
内藤由起子Yukiko Naito
photograph byKYODO
posted2019/11/07 18:00
第44期名人戦7番勝負の第5局で、当時名人の張栩九段(右)を破った芝野名人。10代初の7大タイトル保持者となった。
筋トレで45kgに「増量」した。
芝野は身長165cm、体重45kgの痩身。当初、持ち時間8時間(2人で16時間)の2日制対局である名人戦の長丁場に、体力的に対応できるのかも心配されたが、全くの杞憂だった。
屈強に見える歴代名人でも、対局終盤には目の下にクマができたり、長距離を走り終わったように呼吸が荒くなり、汗だくになるなど、疲労は見て取れた。
しかし芝野の正座で背筋を伸ばした姿勢は最後まで崩れることもなく、8時間の持ち時間を目一杯使って考え、正確に打ち続けた。端から見ても、疲労感は全く感じられなかった。
それは19歳という若さだけが理由ではなかった。実は、腹筋や腕立て伏せなどのトレーニングを1日おきにやり、45kgに増量(!)して名人戦に臨んでいたという。
「8時間は大変ではなく、すごく楽しかった」と、納得いくまで考える胆力も備わっていた。
名人戦の後、さらにネットで対局。
さらに、2日制の対局が終わったあと、部屋に戻って海外の棋士とインターネット対局を始めたのには、驚かされた。あんなに頭を使って、さらにまた使うのかと。
これまで見てきた歴代名人、挑戦者のほとんどは、対局が終わるとリラックスして過ごしているのに。
芝野の体型に惑わされていたのかも知れない。実はものすごく体力があるのだと、思い知らされた。
体力もあるだろうが、それ以上に碁を打つのも好きなのだろう。
名人獲得の勝因を、「楽しく打てているのがよかったのかも」とこたえているのだから。
2019年11月初旬現在、芝野名人は、王座戦五番勝負で井山裕太四冠に挑戦真っ最中だ。初戦は芝野名人が最小差の半目で勝利。好スタートを切った。
井山一強時代がまだ続くのか。それとも芝野ら若手が台頭するのか。
今後の囲碁界を占う大事なシリーズは、12月中旬までには決着する。