“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
徳島が3年かけて築き上げた連動性。
ロドリゲスサッカーはJ1に届くか。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/10/26 11:40
好調・徳島ヴォルティスのキーマンMF渡井理己。今季はすでに6ゴールを挙げ、大宮戦でもゴールに絡む活躍を見せた。
大宮を突き放した“慌てない徳島”。
70分、大宮・酒井に同点ゴールを浴びた。それでも徳島は慌てない。
「僕らは相手がやりにくくなるような立ち位置を練習しているし、『こうなったら、こうなる』というのがチームで意思統一ができている」
そう野村が語ったように、後方で大宮のプレスを回避するポゼッションを繰り返しながら、中盤に一瞬でも隙ができたら、2シャドーにボールを預けて攻撃につなげていく。そのスタイルを崩さなかった。
そして73分。センターライン付近で右CB石井がボールを受けた時、大宮はプレスに行くのではなく、全員が自陣に戻って低い位置にブロックを敷いていた。それを見たボランチの小西雄大はすっとポジションを落とし、フリーで縦パスを受けて前を向いた。その瞬間、野村も同じように下がり、縦パスを受けた。
すると、この2つの縦パスに対し、大宮の5人のDFラインを押し上げた。そこを徳島は見逃さなかった。野村はワンタッチで前を向くと、大宮DFラインの裏のスペースを狙って駆け上がってきた左CB内田裕斗へ、少しタメを作ってから浮き球のスルーパスを送った。これを受けた内田が、戻ってきた相手DFの間を縫ってゴールに決勝弾を突き刺した。
「6、7人でボールを回せて、どこにボールがいっても数的優位という状況になるようにした。シャドーの選手が下がったりして、相手が出てきたら前に運ぶということを狙っていました」(野村)
「去年や前半戦と比べて、『どこにポジションを取ればいいか』は、声を出さなくても分かるし、そこに誰かが動いてくれている。それに中盤の真ん中できちんとボールを受けて崩しに関わっているので、よりサイドが生きている。真ん中で勝負できるということは相手にとっても嫌だと思うし、ストロングになっていると思います」(渡井)
あの2ゴールは、試合前から持っていたチームとしての明確な狙いと積み上げてきたコンセプトを、忠実に具現化したに過ぎなかった。
自分たちの力で白星にできる。
この躍進は決して偶発的なものではなく、徳島というクラブがロドリゲス監督を招聘して、約3年の歳月を経て積み上げてきたものがようやく花を咲かそうとしているのだ。
「これまで監督がやってきたことが、チームとして積み上がっていなかったら、こんなに変われないと思う。今までちょっとどっちに転ぶかわからなかった部分が、白(星)の方向に転ぶようになったし、自分たちの力でひっくり返せるようになった気がします。あとはチームのために全力を尽くすなど、基本的な部分を継続することだと思う。地に足をつけて、責任を持ってやるだけです」
最後に野村がそう語ったように、勢いだけではないことを選手自身が実感できている。それこそが、今の徳島の強さの秘訣なのだろう。
継続性をベースに意図的に生み出されている「鳴門の渦潮」。パワー、スピード、結束力を兼ね揃え、観客を興奮の「渦」に巻き込むチーム。
悲願の2度目のJ1昇格に向けて、力強く前進していく。