One story of the fieldBACK NUMBER
窓越しの少年はいつもうつむいて。
大船渡が佐々木朗希に見た夢。(下)
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byShigeki Yamamoto
posted2019/10/18 20:05
4球団から1位指名され、抽選の結果、ロッテが交渉権を獲得。チームメイトらから祝福される佐々木。
「おっ」と目を引くような地肩の強さ。
6年前、中学に入ったばかりの佐々木を見たとき、萬はプロになる素材だとは想像していなかった。
身長は170cmを超えていたが、それに比べて体重は50kgちょっとしかなく、投手にとって生命線となる下半身は木の枝のように細かった。ただキャッチボールをさせると「おっ」と目を引くような地肩の強さがあった。
なかでも他の選手と違ったのは、野球への欲求だった。大船渡一中のグラウンドには当時、まだ仮設住宅があったため、野球部の練習グラウンドも校舎から3、4分歩いたところに造成した“仮設”だった。ホームベースからセンターまで80mほどしかなく、レフトが極端に狭かった。
目を離すといつまでも投げている。
佐々木はいつも授業が終わると、そのいびつなグラウンドに真っ先に駆けていったという。一番に到着しないと、それだけで悔しがった。そして、監督やコーチが少しでも目を離すと、いつまでもブルペンで投げ込んでいる。そんな投手だった。
「こちらがセーブしないと、どこまでもやりたくて仕方がない。どんどん投げちゃうんです。だから球数を制限して、毎日、報告させるようにしました」
萬は朗希の3つ上の兄、琉希も指導したが、アスリートとしての運動能力、センスは兄のほうが優っていると感じた。
「兄ちゃんは内野手だったんですが、足も速くて、運動能力が高くて、守備もバッティングもセンスがある。朗希はどちらかというと、兄ちゃんに追いつきたいという感じだったのかなあ。それに兄ちゃんは自分の気持ちをよく喋りましたけど、朗希は話すことがあまり得意ではなかった」