One story of the fieldBACK NUMBER
窓越しの少年はいつもうつむいて。
大船渡が佐々木朗希に見た夢。(下)
posted2019/10/18 20:05
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Shigeki Yamamoto
10月17日、プロ野球ドラフト会議。佐々木朗希は学生服姿で壇上にいた。
大船渡市三陸公民館ホール。舞台の下からはカメラの放列が向けられている。
午後5時28分。4球団競合の末に、千葉ロッテマリーンズの監督・井口資仁が交渉権を引き当てるのを見とどけると、少しだけ表情を緩めた。一斉に光ったフラッシュが彼を照らした。
「しっかり目標を立てて、ひとつずつクリアして、しっかり成長して、日本一の投手になれたらと思います」
これから飛び込むプロの世界での希望を語り、野球部のチームメートたちの手で胴上げされる。
一見すると、これまで何年も、各地で繰り広げられてきたドラフト1位投手の幸せな門出だが、どこかが違う。
佐々木を取り巻く異様な空気。
会見が行われた公民館は大船渡高校からおよそ15kmも離れた三陸町にあり、山をひとつ、三陸道のインターを2つ越えなければならない。ホールから一歩外に出れば、そこにはリアス沿いを走る45号線と海があるだけで、ほとんど人通りがない。町の人も学校の生徒もいない。
野球部員と一部の父兄がマイクロバスでやってきただけである。会場にはメディアの多さだけが目立っていた。
冒頭には校長があいさつして、「本校、全生徒が普段通りの高校生活を平穏無事に送れますよう、心からお願い申しあげます」と訴えた。
そこだけこの町から切り離されたようだった。
こうした、佐々木を取り巻く異様な空気は、いつもうつむいて歩いていた少年が成長すればするほど、彼のまわりで醸成されてきたものなのかもしれない。そして、甲子園をめざした今夏、誰もがそれをはっきりと実感した。