One story of the fieldBACK NUMBER
窓越しの少年はいつもうつむいて。
大船渡が佐々木朗希に見た夢。(下)
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byShigeki Yamamoto
posted2019/10/18 20:05
4球団から1位指名され、抽選の結果、ロッテが交渉権を獲得。チームメイトらから祝福される佐々木。
携帯電話にメッセージが。
この夏、佐々木の代名詞は「163km」だった。港町・大船渡のエースというよりも日本のエースであり、令和の怪物だった。岩手大会が始まる前から、もう甲子園出場を決めたかのような膨大な数の報道がなされていた。
7月15日、大船渡高校が遠野緑峰との初戦を迎える前の日、遠野中学校の教諭・萬英一の携帯電話にあるメッセージが届いた。
『どうやったら、佐々木くんのボールを打てますか?』
萬は佐々木が大船渡一中に入学してから2年間、野球部の顧問を務めていた。その後、内陸側の遠野に赴任し、そこでもやはり野球部を指導している。
メッセージの主は遠野中学での教え子であり、まさに翌日、佐々木に対峙する緑峰高校の野球部員だった。
あいつの球は打てない。
「僕はね、『無理だ。あいつの球は打てない』と送り返したんですよ。そうとしか言いようがなかったから」
どちらも教え子なのだからフェアでいたいとか、そういうことではなく本心からの言葉だったという。
それでも、もう一度、携帯が鳴る。
『なぜですか? あのストレートを打つ方法はありませんか?』
ない。あいつの球は打てない──。
萬は再び、球児にとって残酷な言葉を打ち込むしかなかった。
「彼の球は県内の高校生レベルでは投げた瞬間に振ったとしても間に合わない。見えているところから伸びてくる、浮き上がってくる。だからバットに当たらないんです」