One story of the fieldBACK NUMBER
窓越しの少年はいつもうつむいて。
大船渡が佐々木朗希に見た夢。(下)
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byShigeki Yamamoto
posted2019/10/18 20:05
4球団から1位指名され、抽選の結果、ロッテが交渉権を獲得。チームメイトらから祝福される佐々木。
アンバランスで頑なだった。
万能の兄に比べれば、朗希は身体的にも、内面的にも、アンバランスで頑なだった。
ただ、そうした一面がある突出した能力を磨かせていったのかもしれない。彼はマウンドにあがれば、誰よりも速い球を投げた。
萬が大船渡を離れる中学2年まで、登板させたのは最長5イニングだったが、すでに他とは比較できないほどの片りんが見えたという。
絶望を通り越して潔い諦めを抱かせる。
その後、遠野に移った萬は、中学を卒業する前の佐々木に会う機会があり、その時、こんな会話をしたことを覚えている。
「どこか強豪の私立から誘いが来ているんじゃないの? いかないの?」
「いえ、行きません」
「甲子園に出たいんじゃないのか?」
「今まで一緒にやった仲間と甲子園に行きたいです。大船渡(高校)に行きます」
「その気持ちは変わらないの?」
「変わりません」
萬は頑なな佐々木らしい、その心情はよく理解できたが、彼の能力を冷静に見れば、その決断はやはりアンバランスなものに思えたという。
7月16日、花巻球場で行われた大船渡と遠野緑峰のゲームは14-0、5回コールドで大船渡が勝った。萬が予測した通り、佐々木は2回打者6人を完全に封じた。ほとんど前に飛ばなかった。
同い年の高校生に、絶望を通り越して潔い諦めを抱かせるような球だった。
それからは投げるたびに160kmという数字が新聞に躍り、ますますメディアの数は増え、プロ球団や、米大リーグのスカウトたちがネット裏につめかけた。