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元浦和監督フィンケが土台を築いた、
好調フライブルクの独自性とは。
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byUniphoto Press
posted2019/10/18 11:40
かつて矢野貴章も所属した経験のあるフライブルク。ブンデス1部の舞台で独自性を貫いている。
育成スカウトチーフから聞いた話。
これはフライブルクの育成スカウトチーフから聞いた話だ。
あるところで開かれたU-13の大会視察に出かけたときに、非常に優れた動きをする選手を見つけた。
ボールコントロールが自然で、ボールを持った後の出足がとにかく鋭い。これはダイヤの原石だと直観した。すぐにでも獲得したいと思ったが、その子の住む村はフライブルクから1時間以上離れたところだった。
クラブはU-13ではフライブルク市内の選手しか対象にしないようにしている。それは、子どもたちにとって自宅から短い時間で通えるという環境が、成長においてとても大事だというコンセプトを持っているからだ。
現時点ではまだ獲得できない。だからといって、そのまま野放しにしておくにはあまりにもったいない逸材である。スカウトチーフは、ライバルクラブであるカールスルーエFCに連絡を入れて、こう伝えたという。
「カールスルーエからそこまで遠くないところに非常に才能を感じさせる選手を見つけた。ただうちではいまの年齢では獲得できない。おたくでよかったら面倒をみてみたらどうだろうか?」
「カールスルーエをお勧めするよ」
そして、選手本人にはこう伝えた。
「ぜひ、うちでプレーしてほしいと思っている。だけど、U-15まではカールスルーエでプレーすることをお勧めするよ。もしU-15を終えて、うちの寮に入れる年齢になったときにフライブルクでやってみたいという思いがあったらうれしいけど、それを決めるのは君だから」
カールスルーエに入団したその子はチーフスカウトの目利き通り、めきめきと成長し、各世代別代表にも呼ばれるようになったという。そして、チャンスをつないでくれたフライブルクへの恩義を感じながらも、成長させてくれたカールスルーエへの思いも強かったために、最終的にはカールスルーエでのプレーを決断したという。
常に選手の立場に立ち、彼らがどうすればより成長できるのかを考える。それが、フライブルクの育成方針である。だから、たとえライバルクラブにでも、それがその選手のためになると思ったら情報を隠すことなく届けるのだ。
それこそが、人をひきつけ、堅い信頼関係を築き、健全なクラブ運営へとつながるなによりの土台なのだろう。