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スコットランド戦の「ありがとう」は
街を、命を守ったスタジアムにも。
text by
金子達仁Tatsuhito Kaneko
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/10/15 20:30
スコットランド戦のキックオフ前、台風による犠牲者へ黙祷が捧げられた。
スコットランドが、世界が、驚いた。
2019年10月13日のラグビー日本代表がやってのけたことは違う。
日本は大騒ぎになった。初めてフランス・ワールドカップに出場したときのように、初めてWBCで優勝したときのように、歓喜の渦に包まれた。テレビの視聴率はとてつもない数字を弾き出し、評論家が経済効果を語り始めた。
だが、第1回WBCの優勝を逃したアメリカで国民が悲嘆の涙に暮れた、という話は聞かなかったが、今回、スコットランド人は掛け値なしに衝撃を受けている。彼らに油断はなかったし、試合への関心が低いわけでもなかった。全力で立ちはだかり、日本の行く手を阻もうとして、それでも、打ち砕かれた。
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驚いたのはスコットランド人だけではない。いつもならばライバルの失態を嘲笑するイングランド人も、当事者ではないフランス人も、アルゼンチン人も、ほとんど驚愕といってもいい反応を見せている。
もし今後、日本のスポーツが同程度の衝撃を世界に与えようとするならば──。
サッカーであれば、ブラジルやドイツを粉砕した上でのワールドカップ優勝か。
バスケットボールの日本代表がNBAのスターで固めたアメリカ代表を破るか。
それほどのことを、日本はやったのだ。
スポーツは、たかがスポーツである。
何度も目にし、聞いてきた。
勇気を与えよう!
そのたびに、複雑な気分になった。
アスリートの見せる闘志が、勇気が、そして勝利が、時に被災した方、傷ついた方に勇気を与えるのは事実だろう。だが、アスリートの側が、自分たちの闘志や勇気、勝利が誰かを勇気づけるはずだと思い込むのは、いささか傲慢にすぎる気がしてならなかった。
スポーツは、たかがスポーツである。結果として生じる副産物を目的にしてしまうことは、本質を見失わせる。ノーベル賞が、途方もない努力と研究の成果に対して与えられるものであり、賞を目指したからといって手に入れられるものではないように。
だから、スコットランド戦の勝利が、台風19号で被災した方、家族を亡くした方をどれだけ勇気づけたのか、わたしにはわからない。ほんの少しでも勇気づけられていてくだされば、とは思うが、「それどころではない」「この非常時に」と感じられた方だっているはずだとも思う。
それでも、今回の勝利に胸を張っていい人たちがいる。